世界のメディア王ルパート・マードック
経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを発行するダウ・ジョーンズ社が、50億ドルで、ニューズ・コープ社に買収された。
ニューズ・コープ社はイギリス、アメリカ、アジアに勢力を拡げるメディア・コングロマリットで、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、衛星放送にシェアを拡大している。
総帥はオーストラリア出身のルパート・マードック。
イギリスではサッチャー政権のタカ派政策を支持する保守新聞と、カラーでヌードを掲載するタブロイド紙という、愛国とエロの両輪路線で、エリートのリベラルに反感を持つ労働者階級と保守財界人などの人気を集めた。
アメリカではまず硬派の地元紙だったNYポストを買収して、ゴシップ記事と右翼反動オピニオンの新聞に作り変えた。
70年代終わりにマードックは20世紀FOXを参加に収めた。
80年代に地上波テレビ局FOXネットワークを創立。
政治とモラル的にシニカルで過激なアニメ『シンプソンズ』、およびセックスとバイオレンスの扇情的番組で、NBC、ABC、CBSの三大ネットワークの上品さを嘲笑うように視聴率を拡大した。
90年代にはFOXネットワークの成功を基盤に24時間ニュース専門ケーブルTVFOXニュース・チャンネルを発足。
FOXニュースは共和党のメディア戦略家、ロジャー・アイルズをCEOに、「地球温暖化はリベラルのデマ」などの偏向報道を展開。
ブッシュ政権が成立すると、FOXはブッシュの大本営発表となり、911テロの後は、「テロの黒幕はイラク」「イラクが大量破壊兵器を持っている」というブッシュの誤った主張を支持して反イラク・プロパガンダを行った。
この戦意高揚キャンペーンでFOXは視聴率でCNNを抜いてトップに立った。
そして、アメリカの世論を戦争へと導いた。
このFOXニュースの情報操作による戦争への世論形成はルパート・マードックの指示によるものだった。
そのことを2007年1月にフォーラムで詰問された時、本人は渋々認めている。
メディア王が戦争を起こしたのは、実は今回が初めてではない。
アメリカがスペインに戦争を仕掛けてプエルトリコを奪った米西戦争は、新聞王ランドルフ・ハーストが、スペイン軍にアメリカの婦人が陵辱されたというデッチあげ記事を新聞に載せて、スペイン憎しキャンペーンを展開したことがきっかけで起こったのだ。
FOXネットワークと20世紀FOXのトップは民主党支持のリベラルであり、
作品を通してマードックを揶揄することも多い。
「シンプソンズ」にはマードック自身が登場し、「わしが世界征服を企むメディア王マードックじゃ」というセリフを言ったこともある。
しかし「シンプソンズ」の2006年のハロウィン特番でイラク戦争を批判した時は局の上層部の判断で検閲された。
それに怒ったプロデューサーのマット・グローイングは2007年5月記念すべき「シンプソンズ」第400話で徹底的にFOXニュースの偏向報道を批判した。
番組放送後、グローイングはニュース・コープ社から「番組を打ち切るだけでなく、訴訟も辞さない」と恫喝された。