アメリカ映画特電は『キングダム/見えざる敵』

TomoMachi2007-08-03

隔週木曜日更新「町山智浩アメリカ映画特電」、今週はマイケル・マン製作の『キングダム/見えざる敵』(UIP配給・今秋公開)について話しています。
http://www.eigahiho.com/podcast.html
予告編↓

キングダム(王国)とはサウジアラビアのこと。
冒頭、サウジアラビアアメリカの近代史がおさらいされる。
アメリカにとってサウジは石油の最大の輸入国
またサウジの石油資本はアメリカの資本の多くを所有している。
しかし、911テロの犯人たちはほとんどサウジアラビア人だった。

まず、サウジ国内で働くアメリカ人たちの宿舎がテロリストたちに襲われる。
グラウンドで野球をする子供たちとその親を無差別射撃。
警備員が「こっちに避難しろ!」と叫ぶ。
子供たちが集まったところでその警備員が自爆。

このテロで親友を殺されたFBI捜査官(ジェイミー・フォックス、ジェニファー・ガーナー、クリス・クーパー他)が、サウジに犯人探しに行く。
しかし、アメリカの警察官であるFBIにはサウジでなんの権限もない。
拳銃も取り上げられ、地元警察に監禁され、しかも5日間しか滞在を許されない。
イムリミット5日間で犯人を見つけることができるか?

「キングダム」は911テロ以降のアメリカと中東の関係を、FBI捜査官と地元警察官との関係に置き換え、それを5日間、上映時間90分にぎゅっと圧縮した、強烈なテンションのアクション映画だ。
監督のピーター・バーグは自分でこの映画のアイデアを思いついたが、内容が政治的なのでハリウッドは食いつかなかった。
そこで巨匠マイケル・マンに相談し、彼がプロデューサーとなることでユニヴァーサルの出資をとりつけた。
基本的に痛快な娯楽アクションだが、マイケル・マン流のドキュメンタリー・タッチの演出で、撮影は三機の揺れ動く手持ちカメラだけで行われている。
映画では通常、1カメだけでカットごとに撮影するが、『キングダム』では連続した動きを3カメで同時に撮影し、カメラをスイッチングしてカットを割る。それによってTVニュースのように見える。
また銃撃戦はマイケル・マンの弟子らしくリアルで、アクションというより、報道陣が偶然銃撃戦に巻き込まれてしまったように見える。
ハリウッド映画なので、いちおうのハッピーエンドになるが、それだけで終わらず、自爆テロへの理解や共感も忘れていない。
自爆テロリストを取り締まるサウジ警察の警察官を演じるのはパレスチナ映画『パラダイス・ナウ!』でパレスチナ自爆テロリストを演じたパレスチナ俳優たちだから。
ドン・シーゲル、ジョン・フランケンハイマーから、マイケル・マンへと連なる社会派バイオレンス・アクションは最近、少なくなったが、これはひさびさの傑作だ。