追悼レナード・コーエン「ザ・フューチャー」訳詞

ドナルド・トランプ当選の翌日、歌手レナード・コーエンが亡くなった。
ナチュラル・ボーン・キラーズ』のエンディングに流れる彼の「ザ・フューチャー」の歌詞はトランプ当選の夜を予言する黙示録のようだ。

あの砕かれた夜を返せ
私の鏡に映った部屋を
私の秘密の生活を
ここは孤独だ
拷問する者すら残っていない
生きとし生ける魂の
完全なコントロールをくれ
そして私に添い寝してくれ 愛する人
これは命令だ!


私にクラック・コカインとアナル・セックスをくれ
一本だけ残った木を取って
お前の文化の穴に
それを突っ込んでくれ


ベルリンの壁を返せ
スターリンと聖パウロを返せ
私はずっと未来を見てきたんだ 同胞よ
未来は殺人だ


地すべりしていく あらゆる方向にすべっていく
何もできない
もはや何も判断できない
リザードだ 世界のブリザード
すでにその域を越えて
魂の秩序をひっくり返してしまった


悔い改めよ、悔い改めよと彼らが言っても
彼らが何を意味しているのかわからない


悔い改めよ、悔い改めよと彼らが言ったが
彼らが何を意味しているのかわからない


風に聞いても、君には僕を理解できない
これからも 今までも
私はただのユダヤ人だ
聖書を書いただけのね


私はさまざまな国家の興隆と滅亡を見てきた
私は彼らの歴史を聞いてきた すべてをね
だが、愛だけが生き残るためのエンジンなんだ
私は君のしもべだ 年老いてしまったが


はっきり言ってしまえば 冷たく言ってしまえば
すべては終わってしまった
この先は行き止まりだ
今、天国の車輪は止まった
悪魔の群れが駆けてくるのを感じるだろう
未来に備えるんだ
それは殺人だから


地滑りは続く
古の西欧の慣習は破られる
人々の私生活は突如、破壊される
亡者どもが現れ
道路が炎に包まれ
白人は踊り狂う


一人の女性が逆さに吊られているのが見えるだろう
彼女の顔は垂れ下がったガウンで隠されている
汚く小さな詩人どもが集まって
チャールズ・マンソンのように歌い
白人は踊り狂う


ベルリンの壁を返せ
スターリンと聖パウロを返せ
キリストを返せ
ヒロシマを返せ
またひとつ胎児を破壊しろ
なぜか子どもは嫌いなんだ
私はずっと未来を見てきた
それは殺人なんだ

1コマでわかるトランプとヒラリーの現状認識の違い


“Two Views” by Joe Heller
二人の大統領候補の指名受託演説から、1コマでわかるトランプとヒラリーの現状認識の違い
上から読むとトランプの現状認識
事態は悪化している
説得しようとするな
アメリカの未来は明るいなんて
世間をよく見れば
怒りと憎しみに満ちている
たとえ
我々はそんな国では
ないとしても
恐れるべきだ
犯罪とテロと不法移民問題
対処しなければならない
信じてほしい
恐怖は
強大だ
希望よりも
なぜなら
我々は楽観できない
だから私は決して口にしない
アメリカには壁ではなく橋こそが必要だ」などと。

下から読めばヒラリーの現状認識
アメリカには壁ではなく橋こそが必要なのです
だから私は決して言いません
楽観的になるな、などとは
なぜなら
希望は
偉大なものです
恐怖よりも
信じてください
対処しなければなりません
犯罪とテロと不法移民問題
恐れるべきでしょう
でも
我々はそんな国ではありません
たとえ
状況が怒りと憎しみに満ちていても
状況をよく見てください
アメリカの未来は明るいのです
だから私を説得しようとしないでください
事態は悪化しているなんて

たまむすびでアントン・イェルチン『グリーン・ルーム』を


毎週火曜日午後3時、TBSラジオ「たまむすび」、本日は先日亡くなったアントン・イェルチン主演のホラー映画『グリーン・ルーム』についてお話しします。

モハメド・アリはなぜグレーテストだったのか

TBSラジオたまむすびで先日亡くなったモハメド・アリがなぜグレーテストだったのか話しました。

『アリ・ザ・グレーテスト』主題歌
「グレーテスト・ラブ・オブ・オール」

子どもたちは未来だから
明日を導くように育てよう
自分の美しさに気づかせよう
そのために誇りを持たせよう
子どもたちを笑わせて
私たちも 希望に満ちていた
あの頃を思い出そう


誰もがヒーローを探している
崇める人を求めている
でも、私はヒーローを見つけられなかった
孤独のなかで私は知った
それは自分自身しかいないと


私はずっと昔に決めた 
決して誰かの影は歩まないと


成功しようと失敗しようと
私は私が信じる道を行く


彼らが私のすべてを奪おうと
私の尊厳だけは奪えない
なぜなら


世界でいちばんの愛が
私にはあるから


世界でいちばんの愛を
自分のなかに見つけたから


世界でいちばんの愛は
簡単に手が届く


自分自身を愛せばいい
それが世界でいちばんの愛

クリストファー・ノーラン『インターステラー』インタビュー

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スマホばかり見てないで、宇宙を見ようよ!
クリストファー・ノーラン監督インタビュー
インターステラー』公開当時に映画秘宝に掲載したものです。
取材・文 町山智浩

――『インターステラー』は最初、スティーヴン・スピルバーグ監督で発表されましたが、どんな経過で企画を引き継いだんですか?
ノーラン もともとパラマウントのために宇宙物理学者のキップ・ソーンが恒星間航行をリアルに描こうとして企画した。それで脚本に僕の弟のジョナサンが雇われたんだ。でもスピルバーグのドリームワークスがパラマウントを離れたんで、僕が監督を引き受けたんだ。
――でも、スピルバーグ的な要素は『インターステラー』にいっぱい残ってますね。父親が子どもを捨てて宇宙への夢に賭けてしまうのも、得体のしれない何かの力に導かれていくのも『未知との遭遇』だし、少女と幽霊の交信は『ポルターガイスト』で……。
ノーラン この映画にはスピルバーグの影響は大きいよ。『2001年宇宙の旅』の影響は誰でもすぐに気づくだろうけど、家族を通じてSFを描く手法も、ファミリー向けのハードなSFというジャンルもスピルバーグが開拓したものだからね。僕は『インターステラー』をファミリー向け映画だと思っているよ。
――滅びかけた地球を救いに銀河の彼方に向かうというストーリーには『宇宙戦艦ヤマト』の影響はないんですか?
ノーラン いや、それは観てないんだ。
――地球が砂嵐によって滅亡しかかっていますが、その原因は?
ノーラン 砂嵐を選んだのは、ケン・バーンズ監督の『ダストボウル』を観たからだ。1930年代にアメリカ中西部を襲った大砂塵の体験者のインタビューを集めたドキュメンタリーで、『インターステラー』の冒頭の老人たちのインタビューはそれを真似ている。ダストボウルは遺棄された農地の表土が風で吹き上がったもので、人間による環境破壊だが、この映画では政治的メッセージが重要ではないので、原因を明らかにしていない。
――ブラックホールには円盤のようなものがついていますが。
ノーラン あれは最新のブラックホール研究に基づいている。キップ・ソーンが提示する科学設定を僕ら兄弟が物語に組み込んでいったんだ。
――『インターステラー』は視覚的に懐かしい映画でした。ロケットは3段式だし、六角形のレンズのフレア(ハレーション)まで写ってるし。
ノーラン 銀河の彼方にカメラがあるんだね(笑)。
――どうして、今回は三段式ロケットとかフィルムによる撮影とか懐かしいスタイルを選んだのですか?
ノーラン それが僕にとってのリアルだからだよ。まず、僕はNASAの記録フィルムを参考にした。たとえば3段式のロケットは60年代のアポロだよね。でも、この作品世界に合ってるんだ。それにレンズ・フレア。あれはアナログのカメラ特有のものだから、デジタル・カメラのそれとは違う。でも、NASAのフィルムにはあれが写ってるんだよ。
――今回は『2001年宇宙の旅』(68年)の頃のように、ミニチュアの宇宙船をフィルムで撮影してますね。
ノーラン フィルムの質感が大事なんだ。現在のデジタル技術よりも、実際に宇宙に行ったらどのように見えるかを重視した。NASAの宇宙船にIMAXカメラを載せて撮影したドキュメンタリーがあったよね? あれと同じカメラが借りられたんだ。実際に宇宙に行ったカメラだよ。だからレンズ・フレアも本物だ。フィルムだからデジタルと違って、ちょっとザラザラしてたでしょ?
――そう! あれがリアルなんですよ!
ノーラン だろ(笑)。それにデジタルだと完全な黒が表現できないんだ。『2001年宇宙の旅』の宇宙は完全な黒だけど、あれはフィルムじゃないと。
――宇宙空間以外もリアルにこだわってますね。氷の惑星のシーンも実際に、セットやCGではなく、アイスランドの氷河でロケしている。吐く息もデジタルで白くするのではなく、実際に極寒の状況で撮影していますね。
ノーラン 大変な撮影だったよ。トラックに撮影機材を全部積んで、マシュー・マコノヒーマット・デイモンと、スタッフ4人プラス2人だけで車に乗って、人が住める土地から遥かに離れた氷河まで行って、ものすごい寒さの中、三日間合宿して撮った。スタッフや俳優は本当に苛酷だったと思うよ。僕は……けっこう好きだった(笑)。だって必要最低限のものしか、持っていけなかったから、本当に極限状態だった。極限状態のシーンを極限状態で撮るのってリアルじゃないか(笑)。
――聞いてると、本当にCGが嫌いみたいですね。実際にカメラの前でそれが起っているのを撮ろうとする。
ノーラン うん。だって違いがわかるから。CGは嫌いじゃないよ。何でもできるからね。でも、何よりも気になるのは「どうしたら人工的に見えないようになるか」だ。僕が、ビジュアル・エフェクツ・スーパーバザーのポール・J・フランクリンに「どうしたらアニメーションっぽく見えなくなる?」と質問したら「そりゃ、いちばんいいのは実物を撮ることだよ」と言われたからね。CGは操演用のワイヤーなどを後から消すだけにして。今回はロボットも操演師がリアルタイムで動かしている。で、後から操演師を消しただけなんだ。
――『サイレント・ランニング』のロボットみたいでしたね。
ノーラン そうそう! あれだよ。ロボットのセリフも現場で声優がしゃべってるんだ。もちろん指の変形などはCGでやってるけどね。CGについていちばん苦労したのは、CGのコントラストをフィルムのコントラストに合わせることだった。デジタルはフィルムと違って黒味の部分が完全に黒くつぶれないから、どうしてもフィルムとのコントラストの差が出ちゃうんだ。いろいろ実験してみたよ。たとえばCGで作った映像をいったんスクリーンに映写して、それをわざわざフィルムに撮影したりね。とにかく妥協して、最近の他の映画みたいにグリーンバックで安易にデジタル合成したくなかった。
――トウモロコシ畑で野球するところから始まるのは『フィールド・オブ・ドリームス』ですね?
ノーラン 確かに。
――父と子の和解も『フィールド・オブ・ドリームス』だし……。主人公は典型的なアメリカの西部の男ですね。あなたはイギリス人なのに、どうしてこんなにアメリカ的なんですか?
ノーラン そういうものは既にアメリカだけのアイコンではないよ。ハリウッド映画を通じて世界的な記憶になったんだ。イギリス人の僕もアメリカ映画で育ったからアメリカ的な映画を作ってる。ハリウッド映画の王道だったビリー・ワイルダーだってオーストリア出身だったじゃないか。『インターステラー』の主人公は要するにカウボーイだけど、あれは『ライト・スタッフ』(83年)のチャック・イェーガーだよ。宇宙パイロットの夢を断たれたカウボーイが再び宇宙を目指す。
――『インターステラー』はこの世界とは違う世界ですよね。自動車などは現在の自動車ですが、学校の教師はアポロが月に行ったことを信じていない。それどころか宇宙開発を憎んでいる。
ノーラン 今の世界が内向的になっているのを誇張したんだ。ここ数十年、科学技術は確かに進歩した。でも、内側に向かっていく技術ばかりだ。たとえば、スマホさ。でも、かつて科学は外を、宇宙を向いていたんだ。
――それでこの映画にはスマホやインターネットが出てこないんですね!
ノーラン まんまり好きじゃないんでね(笑)。だって、ネットのせいでみんな本を読まなくなったじゃないか。書物は知識の歴史的な大系だ。ネットではそのコンテクストが失われてしまう。
――だから『インターステラー』は本で始まり、本がコミュニケーションの重要な道具になっているんですね。
ノーラン その通りだよ(笑)。スマホ世代に僕の『インセプション』(10年)が人気なのは、あれが心の内側へ内側へと向かっていく話だからだと思う。『インセプション』は内側に向かってばかりじゃダメだ、という話なんだけどね。だから『インターステラー』では外に、宇宙に向かうんだ。
――主人公は「地球に生まれたからって地球で死ななきゃならないわけじゃない」と言いますが、「地球を捨ててもいいじゃないか」という過激なメッセージですね。「地球を大切に」というエコロジーからすると。
ノーラン そう言われることを心配してたけどまだ誰にも指摘されてないね。でも、あのセリフはよかったと思うよ。地球を捨てる以外に選択の余地がない状況だから。僕は人類が自分の選択で宇宙に旅立っていくべきだと思うけど。
――人類が内側にこもっていっては進化もしない。そう、この映画には人類の進化というテーマが隠されてますね……。
ノーラン あー、その話はやめてよ! ネタバレだから!(笑)
――最後に『インセプション』の話を聞きたいんですが、あれは『ラスト・タンゴ・イン・パリ』(72年)と『惑星ソラリス』(72年)の影響を受けてますよね? そういえば『インターステラー』の水の惑星やラストの××××××も『惑星ソラリス』ですよね?
ノーラン ああ、『インセプション』は『ラスト・タンゴ〜』と同じ橋でロケした。タルコフスキーでは『ソラリス』だけでなく『鏡』(75年)にも影響された。とにかく『ソラリス』が好きで、ソダーバーグ版もけっこう好きなんだよね。
――『ラスト・タンゴ〜』も『ソラリス』も妻を失った男の話ですが、あなたの映画は『メメント』以来、『インターステラー』まで、主人公が妻や恋人を失う話ばかりですが、どういう心理的な理由があるんでしょう?
ノーラン それ、いっつもみんなに言われるんだけど(笑)、自分では理由がわかんないんだよ(笑)。それは僕のカミさんに聞いてくれないか?(笑)。