マイケル・ムーア敗戦の辞

TomoMachi2004-11-05

開票後、ムーアの公式サイトhttp://www.michaelmoore.com/
イラクで死んだ兵士の顔で描かれたブッシュの顔をトップに掲げ、
ムーアが「開票後、まず思ったこと」と題して、兵士の名前を列挙し、
「いつの日か彼らが僕らを許してくれることを願う」
とだけ書いていた。


しかし、ついさっき、彼の手紙が上がったのでざっと日本語にしてみた。
(以下の文章はムーアの手紙であって筆者の考えではありません。念のため)



親愛なる友人たちへ


ああ、最低だよ。まったくひどいもんだ。でも、世をはかなむのはちょっと待ってくれ。
モンティ・パイソンの歌にもあるじゃないか。「いつだって人生、前向きに」って。
火曜日の選挙についていくつかいい話を聞かせよう。


手首を切るのを思いとどまる17の理由


1. 法律ではブッシュはもう大統領に立候補できないんだぜ。


2. ブッシュは現職大統領としては、1916年のウィルソン以来の辛勝だったんだ。


3. 投票者を年齢層ごとに分けると、ケリーに投票した者が過半数を占めるのはヤングアダルト層だけだった(若年投票者のうちケリーに入れたのは54%。ブッシュは44%)。パパやママの言うことはいつだって間違ってるから、聞く必要ないってことの証明だね。


4. ブッシュはたしかに勝ったけど、調査によれば過半数アメリカ人はアメリカは間違った方向に進んでいると思っている(56%)し、イラク戦争は戦う意義がないとも思っている(51%)。それに、ブッシュの仕事ぶりに満足してない人は52%もいるんだ(外国人は『じゃあ、なんでブッシュが勝ったんだ?』と戸惑うだろうけど、これがあんたらには理解できないアメリカ的なところさ。アメリカ人がポップ・タルトみたいな菓子が好きなのと同じでね)。


5. 上院では共和党過半数とはいえ60議席に達しなかったからフィルバスター戦術はまだ有効だ。民主党がちゃんと戦えば、ブッシュは最高裁判事を右翼だけで固めることはできないだろう。「民主党がちゃんと戦えば」? ふむ。これは無理かもしれないな。


6. ミシガンではケリーが勝った! 我らの民主主義発祥の地、北東部の州も! 五大湖8州のうち6州も民主党が取った。それに西海岸は全部! おまけにハワイもね。オッケー、勝負はこれからだ。水際はほとんどこっちが制した。ブロードウェイのあるニューヨークも、セント・ヘレン火山も。奴らから水を取り上げて、溶岩攻めにしてやれ。ミュージカルだってもう見せてやるもんか!


7. やっぱりオハイオ野郎はバカタレだったな。ただのバカじゃない、ムカつくほどバカ野郎だ。このバカどものせいでブッシュが勝っちまった。今度の土曜日のミシガンとの試合じゃ吠え面かかせてやるぜ。


8. ブッシュに投票した88% は白人だった。でも、白人が多数派でいられるのもせいぜいあと50年さ。いや、50年っていってもそれほど先じゃないぜ。君が10歳なら、黄金の60代は本当に黄金の時代になるさ。幸せな老後が過ごせるはずだよ。


9. ゲイの皆さんは、火曜日に大統領選挙と同時に行われた各州の投票の結果、11の州で結婚が禁じられた。ありがたい。今のところ、結婚のお祝いを心配する必要なくなった。


10. 下院に5人の黒人議員が増えた。ジョージア州のシンシア・マッキニーも帰ってきた。黒人議員は多ければ多いほどいい。白人議員より熱心に貧しい民衆のために戦ってくれるから。


11. コロラド州ではクアーズ・ビールのCEOが上院議員に落選した。乾杯!


12. 正直言うと、ブッシュ・ガールズにはもうちょっといて欲しかったよな?


13. 州の立法府では、民主党が多数派となった議会が少なくとも三つ増えた。選挙前、合計98の立法府のうち民主党が多数派なのは44、共和党は53だった(残り一つは同数)が、これで民主党47の共和党49になった(一つは同数。一つは現在未定)。


14. ブッシュはもう任期を消化するだけになった。この選挙は彼にとって人生の頂点だろう。あとは下り坂だ……。大変な仕事がブッシュを待っているけど、真面目にやる気ないだろうな。今のブッシュは受験が終わった高校三年生みたいなもんだ。やっと終わった!パーティだ! たぶんブッシュは残りの4年間を永遠の金曜日みたいに過ごすだろう。ケネバンクポートの牧場でね。いいじゃないか。あいつはもう再選を果たして、一期で消えた親父の雪辱を果たして、僕らに一矢報いたんだから。


15. でも、ブッシュは本性を出してアメリカを暗黒に導くことだろう。起こるといいなと思うのは、次の二つのどちらかのシナリオだ。
A) 選挙に勝った以上、もうキリスト教右翼に媚を売る必要はないから、残りの4年で大統領としての歴史的な評価を得ようとして、今までのように右翼的なイデオロギーをゴリ押ししなくなる。
B) 逆に再選でイイ気になって傲慢になって……無茶をやる。そしてヘマをやらかして共和党もブッシュを降ろすしかなくなる。


16. アメリカの総人口は約3億人、そのうち選挙権のある年齢は2億人だ。それに引き換え、今回はブッシュ5千8百50万票に対してケリー5千5百万票で票差はたった350万票だぜ! こんなの「ブッシュの大勝利」じゃないよ。こっちの惜敗さ。2千万票差じゃないんだぜ。アメフトにたとえると、タッチダウンまで58ヤードで55ヤード走ったところをタックルで潰されたようなもんだ。あとたった3ヤードだったのに、次は残り3ヤードからスタートできるのに、ボールを拾って泣きながらお家に帰るのかい? 違うだろ! 元気出せ! 望みを捨てるな! スポーツ・ネタならいくらでもできるぞ!!!(ブッシュが中西部のブルーカラー対策でスポーツ用語を演説に多用したことへの揶揄か)


17. 最後にいちばん大事なこと。ケリーに投票したアメリカ人は五千五百万人もいたってこと。共和党から「上院で最もリベラル」と言われた男にだよ。その得票数はレーガンやブッシュ父や(民主党右派の)クリントンやゴアより多いんだ。いいかい、ケリーの得票数はレーガンより多かったんだ。マスコミ的にはこんな風に言ってもいい。「ケネディ以来初めて、こんなにも多くのアメリカ国民が、純然たるリベラルに投票した」。この国は福音派だらけになってしまった……それは耳にタコができるほど聞いたね。でも、こんなに沢山のアメリカ人がマサチューセッツのリベラルに乗り換えたってのは初耳だ。実際、これは大変なニュースだよ。この事実をアメリカのマスコミは報じないだろうけどね。奴らは国民をだましてイラク戦争に駆りたてたから。報じなくて結構さ。2008年の選挙でみんなをびっくりさせるためにね。


少しは気分が良くなったかな? そうだといいな。モートっていう僕の友人が昨日こんな手紙をくれた。「僕のルーマニア生まれのお父さんがいつも言ってた。『息子よ、アメリカって国はいい国だ。大統領さえ要らないくらいな!』」


でも、国民は必要なんだ。明日、また君たちに手紙を書くよ。


マイケル・ムーア