これは70年代反戦運動挫折の再来だ

TomoMachi2004-11-04

サンフランシスコ・クロニクル紙に全米の各郡ごとの共和・民主分布図が出た。
それはまだネットには上がっていないので、とりあえず参考までに4年前のものが右の図。
細かい部分で違っているので、以下の説明は今年の分布図について。


民主党が圧勝したカリフォルニアですら、青(民主党)はサンフランシスコやロサンジェルスなどの都市部だけで、内陸地はほとんど真っ赤(共和党)である。
ところが共和党が圧勝した州でも、南部ですら都市部では民主党が勝っていたりする。
たとえばブッシュの地元テキサスのオースチンネヴァダラスヴェガスオハイオならクリーブランドやコロンバス、フロリダではマイアミ、カンザスではカンザス・シティなど大都市は青い(今年の分布図)。
他には人種的な分布もあって、テキサスのメキシコ国境周辺のメキシコ系の多い地域、ミシシッピ川周辺の黒人の多い地域、サウス・ダコタやアリゾナのインディアン・ネイションがある地域でも民主党が勝っている。
しかし、概していえるのは、やはり都市と田舎の対立だ。
アメリカとは大海のような田舎に、ポツンポツンと孤島のように都市があるだけなのだ。
しかし、外国人が旅行で訪れるアメリカは、外国人に見えるアメリカはその孤島の部分だけなのだ。
そして赤い地域に住む人々の大部分にとって、外国は一生に一度行くか行かないかの異世界にすぎない。田舎では労働者のメキシコ人や中華料理屋の中国人以外に外国を感じることはない。
もちろんテロの心配もない。イラクがどこにあるかなんて知らないし、調査ではアメリカ人のほとんどがアフガンは中東にあると思っていた。
そんな人々に「イラクでは十万人殺された」と言ってもピンとくるわけがない。
しかし、大統領の選択に最も大きな力を握っているのは、そういう人々なのだ。


「宗教的価値感こそが大統領にとって最も重要だ」と調査会社ゾグビー社の調査に答えた人の91パーセントがブッシュに投票した。
「我々がアンケートを取る時に選択肢として用意した5つの項目に宗教倫理は最初は入ってなかった」
ゾグビー社の社長ジョン・ゾグビーは、宗教がそんなに重要だとは気づかなかったと驚いている。
ゾグビー自身は今回の選挙でケリー勝利と予測していたのだ。


アメリカ一下品なラジオDJハワード・スターンは、共和党議員が成立させた「放送倫理法」のために、ついにFMラジオを追われる。
まだ検閲の及ばない衛星ラジオに移籍することになったスターンはブッシュ勝利を知った朝の放送で「これでラジオから自由が消える」と宣言した。
「政府の批判をするDJはいなくなる。反体制的な曲も流れなくなる。アメリカのメディアはキリスト教原理主義者の倫理とやらが支配する」
議会でハワード批判の演説をして放送倫理法を成立させた二人の共和党議員は再選された。


今回の選挙はアメリカ文化そのものに大きな痛手を残すだろう。
映画俳優、ミュージシャン、作家、ジャーナリスト、学者たち、それに大学生の多数派はブッシュと戦ったが、
結局、キリスト教右翼と金持ちと田舎の人々に負けた。
この挫折は、今後のアメリカ文化や学生たちに、社会に対する大きな無力感、アパシーを残すだろう。
特に、今まで社会に関心がなかったが、今回始めて市民としての意識に目覚めて選挙に行った若者たちの心の傷は大きいだろう。彼らが再び社会を見るようになるには相当の時間がかかるだろう。
そして民主党への信頼感はとことん失われた。
実はわずか3パーセントで僅差なのだが、その数字は忘れられ、負けたという意識だけが残るだろう。



1960年代後半、ベトナム戦争に反対する学生と文化人や芸術家は激しい闘争を繰り広げた。
大都市にある大学はすべて反戦一色、音楽も出版も反戦主張が圧倒的になった。
日本など海外に伝わるのは、そうした都市とメディアの動きだけだったので、反戦が優勢のように見えた。
しかし、実際の選挙になると、戦争を支持するアメリカ人のほうが多数派だった。ニクソン言うところのサイレント・マジョリティだ。
イージーライダー』のラストで主人公のヒッピーが田舎の農民に撃ち殺される場面はそれを象徴していると言われた。
「社会は変えられない」という挫折感に打ちひしがれた若者や芸術家たちは、社会の矛盾に目をつぶり、政治から離れた。
それは今回の選挙まで30年も続いた。
今回の傷が癒えるまで、またそれくらいの時を要するのだろうか。


ヒッピーだった学生たちは金儲けに奔走し、ヤッピーになった。
彼らは80年代、レーガン政権の金持ち減税で大いに潤った。
レーガン政権下で多くの工場は閉鎖され、小規模農場は潰れた。貧しい者は失業に苦しんだが、資本は富める者に集中した。貧富の格差は拡大した。
アメリカは巨大な財政赤字を抱え、福祉は削減され、貧困層は犯罪に走り、殺人事件の発生件数は史上最悪になった。
それがまた繰り返されるのだ。


ベイエリアのローカルTV局KRON4では、セントラル・バレーと呼ばれるカリフォルニアの山間の地域にあるダーンヴィルという郊外住宅地を取材していた。
そこは大きなプールつきのお屋敷が並ぶ、金持ちの町である。
彼らはみんな「ブッシュ&チェイニー」の旗を振って大喜び。
「8年もブッシュ政権が続くおかげで、100万ドル(一億円)以上、税金が得するよ。子供にもお金を残してやれる」という。
ちなみにブッシュ政権では金持ちの相続税は大幅に免除されている。


ブッシュ政権下で貧富の差は広がり、5人に一人の子供が極貧家庭に生まれる。
減税と戦争が生み出した赤字のため、アメリカの公立学校は予算不足ですでに崩壊している。
5千億ドルに膨れ上がった財政赤字は、次の4年間で増えはしても、減らす策は一切ブッシュは提出していない。
国民健康保険制度が共和党の反対でいつまでも導入されないので、任意で高額な民間保険しかなく、貧しい子供は病院に行けない。


オークランドの町に出ると、いくつかの工場や家が半旗を掲げていた。