大統領選挙はこの日記の予測どおり……

TomoMachi2004-11-03

この日記の10月27日から6日間にわたって予測してきたとおりの展開になった。
(実はあの日記は週刊プレイボーイに筆者が書いた「それでもケリーが勝てない理由」の短縮版です)。
物書きとしては予測が当たったが、当たって欲しくない予測だった。



その予測で唯一の不確定要素は、エミネムやREMやマイケル・ムーアの呼びかけに応じた若い投票者がどれだけ増えるか、だったが、結局投票者全体の一割にも満たなかった。


また、11月1日の日記でメリーランド大学の調査を以下のように引用した。
http://www.pipa.org/OnlineReports/Pres_Election_04/html/new_10_21_04.html

この調査によれば、
ブッシュ支持者の72%が「イラクには大量破壊兵器が存在した」と誤解している。
ブッシュ政権が「間違いだった」と公式に認めた現在でもだ。
ブッシュ支持者の75パーセントがブッシュ政権の公式発表を聞いていないことになる。


さらに、ブッシュ支持者の75%が「イラクアルカイダのテロに関わっていた」と考えている。
アメリカ政府の国家調査委員会が公式に「イラクとテロは無関係」と認定した今でもだ。
しかもブッシュ支持者の55%が「調査委員会はイラクアルカイダの関係を認めた」と逆に信じている。


このデータによれば事実を理解してない人々によって世界の運命を決める大統領が選ばれたのだ。
しかし、そんなことは彼らにとってどうでもいいのだ。10月29日の日記にも書いたように。
今回、CNN他のアンケートによると、ブッシュに投票した理由で最も多かったのは「モラル政策」がトップだったと報道された。具体的には中絶問題とそれに伴う幹細胞研究、およびゲイ結婚への反対だ。
経済政策への関心は二番目で、対テロ、戦争に関する政策は三番目だった。
このデータは、筆者が日記に書いた「戦争や赤字がどうなろうと彼らは中絶とゲイに反対していさえすればブッシュを支持する」ということを証明している。
たとえばオハイオではブッシュ政権になってからの失業率が最もひどかった地域ですらブッシュが勝っている。
大統領顧問カール・ローブはブッシュが失敗している経済や戦争よりも、中絶とゲイ問題をクローズアップした。つまり福音派アメリカの人口の半分以上だから、中絶とゲイに反対しさえすれば勝てると見込んだのだ。その戦略は功を奏した。


ブッシュに投票した人たちは信仰と引き換えに、兵士の命とアメリカ経済の将来を放棄した。
なにしろブッシュは5千億ドルに膨れ上がった赤字の解決策を何も出しておらず、
このまま、戦争が続き、年収二億円以上の金持ちへの減税、固定資産税の減税が続けば、
その赤字額は倍増するのだ。


予算不足のため、すでにアメリカの公立学校は崩壊し始めている。音楽美術体育が廃止され、学童保育が親の全額負担、もしくは廃止になり、もともと三ヶ月もある夏休みを教師の給料や維持費削減のためにさらに延長するという。日本並みの教育を子供に受けさせようとしたら年間150万円以上かかる私立学校に入れないとならない。あきらめて荒廃した公立学校に入れても共働きの家庭は学童保育費を負担しないとならない。
さらに医療保険料は高くなる一方だ。
中産階級ですら二人以上の子供を持つと共働きでも生活するのがやっとなのだ。
これが原因で出生率が下がる可能性も高いと言われている。

しかし、ブッシュに投票した人々は、子供の将来を踏みにじるブッシュの教育政策に目をつぶって、宗教的価値観のほうを取ったのだ。
アメリカ人の教養の低下はさらに進むだろう。


今回の選挙はブッシュの具体的な政策を問うべきものだったのが、カール・ローブによって「お前は命がけでキリスト教を信じるのか?」という問いを突きつける方向に捻じ曲げられたと言える。
キリスト教的価値観がブッシュ再選の最大の要因とデータが示している以上、アメリカは敵対しているイスラム原理主義と変わりないキリスト教原理主義政府になってきた。


上の地図で、赤い州がブッシュ支持、青い州がケリー支持で、赤い州の住民は州法でもゲイ結婚禁止を選んだ。
青い州はニューヨーク、ワシントンDC、シカゴのあるイリノイ、カリフォルニア、それにハワイ。日本人観光客が行くアメリカ、テレビや映画で見るアメリカ、自由で最先端で、いろんな人種が暮らす、日本人が見上げる経済と文化の先進国アメリカだ。
筆者もそんなアメリカが好きで住み始めた。
しかし、政治的にアメリカは日本人があまり訪れない赤い州、白人中心で、頑迷で、狭量で、聖書を妄信する田舎の人々にコントロールされている(日本も東京や大阪ではなく、群馬や島根の政治家に国を牛耳られてきた)。
中西部はやはり中間的で今回の結果でも両者に引き裂かれているけどね。


ブッシュが勝ったと言っても現実にはアメリカ人の二人に一人が反ブッシュだ。
今までは選挙が終われば全国民一丸となって大統領を後押ししたが、
タイム誌のデータによると国民の7割以上が、対立候補が勝った場合、それを大統領とは認めない、と言っている。
この二つのアメリカはもうほとんど外国のように分裂してしまった。
士郎正宗が『アップルシード』で、未来のアメリカはリベラルな連邦と、右翼的なアメリカ帝国に分裂すると予言していたが、まさにその通りになりつつある。
南北戦争のように、東部&西海岸VS.南部&西部の思想戦争がすでに進んでいるのだ。
(しかしブッシュが勝った州でも細かく見ると大都市ではケリーが勝っている都市が多い。都会と田舎という対立もまた根深い)。


上院下院両院も最高裁共和党に牛耳られ、青い州の意見は8年間も国政レベルで通らなくなった。
青い州は州の自治権を最大限に活用して連邦政府から州民を防衛するしかないだろう。
たとえば中絶の権利が国によって否定され、共和党右派が望むように、州によってはたとえレイプされて妊娠した女性が中絶しても殺人として扱われる(レイプ犯はタダの強姦罪なのに)という最悪の事態の可能性もあり、その場合、青い州が逃げ場になるしかない。
サンフランシスコとボストンがゲイの結婚を認め、連邦政府がそれを潰す、という件があったが、同じような対立はさらに激化するだろう。
青い州(東部&西海岸)は経済や文化の中心なのに、政治的には赤い州(南部&西部)に独裁される。もしかすると、これは南北戦争の130年目の復讐なのかもしれない。


このままブッシュの北朝鮮ほったらかし路線が続くと、アジアにとってもいいことじゃないだろうな。