マイケル・ムーア、民主党大会に現る

TomoMachi2004-07-26

マイケル・ムーアは基本的に反民主党だ。
アホでマヌケなアメリカ白人」などで、共和党と政策上ほとんど違いのない民主党をボロカスに批判して、
「とっとと共和党と合併しちまえ!」と言っている。


それでムーアは2000年の大統領選では「緑の党」のラルフ・ネーダーを応援していた。
しかし民主党共和党は政策上ほとんど差がないこともあって、
2000年の大統領選ではゴアとブッシュの得票数はほとんど差がなくなった。
このままではブッシュが勝つかもしれない、と危機感を抱いたムーアは
「二つの悪魔のうち、より邪悪さが少ない」ゴアを当選させるため、
ネーダーに降りるよう説得したが、時すでに遅かった。


もしゴアだったらどうなったか?
やっぱり同時多発テロは起こったかもしれない。
不景気も避けられなかったかもしれない。
でもイラクには攻め込まなかっただろうし、
軍事費の拡大で史上最大の赤字を抱えることもなかっただろう。


そこで今度の選挙でムーアはブッシュ再選阻止のため、
最初は民主党左派のハワード・ディーンを応援しようとしたが、
直接ムーアが会ってみるとディーンが人間的にどうも今ひとつ好きになれず、
結局、元NATOの司令官クラーク氏を民主党の大統領候補に推すことにした。
ムーアがアカデミー授賞式で「恥を知れ! ブッシュ」と叫んだ時、
CNNのコメンテイターをしていたクラークだけが
「そういうことを言える自由を守るために、アメリカは戦ってきたんだ」と擁護したからだ。


ところが最終的に民主党候補に指名されたのはケリーだった。


華氏911』には民主党のケリー候補に投票しろというメッセージはない。
「『華氏911』を作ったのはケリーが候補に決まる以前だからね」とムーアは言う。
「それに僕個人はケリーには投票しない。彼はイラク戦争に賛成票を入れたからだ」
ムーアはブッシュ戦争に賛成した民主党議員を心底憎んでいる。
ムーアはケリーとは一切接触していない。
「ケリーはイラク戦争を具体的にどうするつもりか言ってないから僕も彼に対する態度を決められない」
とムーアは言う。
でも、ブッシュ再選を阻止するには民主党のケリーを勝たせるしかないのでは?
そう問い詰められるとムーアは「ああああああ」と叫んで頭を抱えた。
本気で、それがムーアのジレンマなのだ。


ケリーのほうもムーアについてコメントすらしていない。
過激なムーアのせいで中道穏健派の票を失うのを恐れているのだ。
ケリーがイラク反戦の意志を示さないのは、二つの理由がある。
まず、いったんは賛成してしまったので「風見鶏」になってしまう。
次に、ベトナム戦争時、米国内で高まる反戦運動を背景に民主党のマクガバン候補は「ベトナムからの撤退」を掲げてニクソン大統領に挑んだが、落選してしまった。
戦時中に撤退、つまり退却を掲げるのは愛国的アメリカ人に嫌われるのだ。


しかし、ブッシュとの支持率争いが拮抗してシーソー・ゲームが続く現状では、ムーアの影響力は決して無視できない。


この微妙な関係の二人がついに同じ場所に現れた。
7月26日、ケリーを正式に候補に指名するための民主党大会がボストンで開かれたが、そこに何の予告もなしに突如ムーアが現れたのだ。
ムーアを招待したのは民主党内の黒人派特別会で、狭い会議室にムーア目当てのマスコミや群集が殺到して一時はパニックになった。
ケリーもかすんでしまうその人気に不快感を示す民主党員も多かった。
ムーアはメイン会場でカーター元大統領の隣に座ったりもしたが、
テレビで観る限り、カーターは真正面を向いたまま一度もムーアと話をしなかった。


結局ムーアとケリーは一度も対面しなかった。
来週、ムーアは民主党の大統領候補の一人だったアル・シャープトンとイベントに参加する予定。
シャープトンはジェシー・ジャクソンの後継者。


ムーアははっきりと表明している。
「もし、誰が次の大統領になろうと、僕のカメラの次のターゲットになるのは彼だ」