あやつり人形アクション大作「チーム・アメリカ」の先行上映に行った。
これは完全に「愛國戦隊大日本」だ。
(主題歌はパワーレンジャー風)
つまり右翼的戦意高揚映画のパスティーシュである。
「スターシップ・トルーパーズ」のように、戦意高揚プロパガンダ・ドラマの枠を借りて
ナショナリズムそのものをバカにしている作品に……なるはずだった。
少なくとも監督たちは「右も左も両方バカにする」映画だと言っていた。
しかし、どうも、そう見えないのだ。
チーム・アメリカが間違った情報でアラブのテロリストを攻めている間に、
金正日が大量破壊兵器をバラまく、という展開なので、
いちおうは大量破壊兵器を本当に作っている北朝鮮をほったらかしでイラクに攻め込んだブッシュを揶揄するプロットではある。
しかし、金正日は、この映画では結構チャーミングで憎めないキャラクターになっている。
そう、金正日はカートマンと同じ声で、そこにも作り手の愛が(なぜか)感じられる。
むしろ悪役になっているのは、対テロ戦争に反対する映画人たちなのだ。
イラク戦争に反対したティム・ロビンスやスーザン・サランドンやショーン・ペンやヘレン・ハントやサミュエル・L・ジャクソンが「アメリカの敵」として描かれ、チーム・アメリカに撃たれて蜂の巣になったり、火ダルマになったり、首をもがれたりして皆殺しになる。
(マイケル・ムーアだけちょっとカッコいい別格扱い)
でも、これが作り手がかなり本気で憎んでる気持ちが伝わってくる。(監督の友人であるジョージ・クルーニーも登場するが彼はあまりひどい目にはあわない)。
というのも、対テロ戦争を旗印に外国に攻め込んで暴虐の限りを尽くす世界警察ティーム・アメリカは、最初こそロクでもない奴らに見えるが、
途中から、チーム・アメリカはバカだけどバカなりに一所懸命正義を行っているのであって、戦争に反対する側が売国奴である、という展開になり、後半はチーム・アメリカを全然バカにしないで賞賛したまま終わってしまうからだ。
実際、主人公がチーム・アメリカをDICK(チンポ、転じて居丈高な嫌な奴)と呼び、
テロリストたちをASSHOLE(ケツの穴、転じてムカつくバカ)と呼び、
反戦運動家たちをPUSSY(オ×コ、転じて女々しい奴)と呼び、
「PussyはAssholeと似たようなもんだけど、
DickはPussyとAssholeの両方をFUCKできる!」と叫ぶところで
観客席からYES!と声が上がった。
もちろんそれはキャラクターが言ったことで、作り手の意志ではないと監督は言うだろう。
たしかに監督のトレイ・パーカーは『サウスパーク劇場版』で真正面から真摯に反戦を訴えていたのである。
ところが『チーム・アメリカ』は、「アメリカの先制攻撃主義は正しい。反対するのは売国奴」という印象だけを観客に残す。
芸能人の政治的活動はたしかにうざったいところがあるのだが、この映画では彼らをテロリストの味方と言い切ってしまっているので、
「反戦俳優どもをアメリカから追放するために再びアカ狩りを!」と叫んでいるブッシュ支持者は手放しで大喜びするだろう。
マット・ストーンは「この映画にしろ、『華氏911』にしろ、たかが映画を観たくらいで影響されて急に投票に行く気になるようなバカはそもそも投票なんかしないほうがいい」と言っている。
すると大統領選挙二週間前に「チーム・アメリカ」を公開したのは、観客が政治について考えるのがアホらしくなるようにするためだったのか?