最初に言っとくと、日本のソニーは最初から『ジ・インタビュー』を劇場公開する予定はなかったよ。
理由は、基本的にソニーは大スターが出てないアメリカン・コメディを劇場公開しないから。
全米トップの『22ジャンプ・ストリート』ですらDVDスルーだから。
だから、最初から日本には、今回の件はまるで影響なかった。
『ゼロ・ダーク・サーティ』は、オサマ・ビン・ラディンを追うCIA諜報員を描く実録映画だが、ビンラディンという怪物を追うことでヒロインが怪物と化していく過程を描く。目的を果たした後、ヒロインを襲うのはどうしようもない虚無だ。
『大統領暗殺』はブッシュ暗殺を描くポリティカル・フィクションだが、しょせんブッシュは傀儡であり、その背後にある軍合複合体がアメリカを操っている、だからブッシュを殺したところで意味はない、というシニカルな映画だった。
『チーム★アメリカ』では、アメリカの特殊部隊チーム・アメリカが金正日の陰謀と戦うが、金正日を殺してはいない。彼は生きて「また帰ってくるぞ」と言い残して去る。
そして『ジ・インタビュー』は金正恩暗殺を描いている。金正恩は確かにミサイル持った危険なバカ息子だが、まだブッシュのように他国を侵略したわけでもなく、ビン・ラディンや金正日のようにまだ国際テロで犠牲者を出してはいない。自国民は死なせているとしても。
『ジ・インタビュー』はコメディだが、金正恩を暗殺する行為それ自体には肯定的だ。皮肉られてない。ハッピーエンドになる。
映画史をみると、ハイドリヒ暗殺を英雄的行為として賛美する映画『暁の7人』など、実際の凶悪な人間の殺害を事後に称賛する映画はあるが、存命中の具体的な誰かの殺害を事前に肯定した映画というのは珍しい。
うん。「存命中の特定の誰かを殺すことの肯定」が『ジ・インタビュー』を観た後の不快さの正体のようだ。
とにかく、人はどんなことを言うのも自由だし、どんなにくだらない映画を作る権利も観る権利もある。
でも、存命中の誰かを名指しして「こいつを殺せ」と言う言論の自由は、そんなに積極的に守るべきなんだろうか?
言った者がそれなりのリスクを背負うべきことであって、声高に「言論の自由だ、守れ」などと叫ぶようなことじゃないんじゃないか?
ましてやこの場合、アメリカの国策に従った暗殺行動の肯定だから、アメリカの傲慢さに無自覚で、きわめて体制翼賛的だしなあ。
これを金正恩以外の人、たとえば日本の誰かに置き換えて考えてみよう。
ツイッターはもういいやという気分になったので、やめました。