映画『レスラー』は箱舟の船長へのテン・カウント

命を削りながら、四十過ぎまで一年中試合をし続ける男たち、女たちがいる。
みんな借金だらけ。金のためにやってるわけじゃない。
それなのに、自ら技を受ける。
「格闘技」のようにディフェンスしない。
頭突きは頭で受ける。キックは胸で受ける。
わざと投げられる。頭から落とされる。
何度も何度も。わざと。
二十年以上、千回も万回も。


それなのに、年に試合は数ヶ月しかないけど年収は億、三十代で引退、そんなスポーツ選手たちのほうが世間では地位が高い。


『レスラー』が今日、日本公開された。
まるで三沢に捧げるテン・カウントのように。

この映画を初めてアメリカで見た時、
エンドタイトルのブルース・スプリングスティーンの歌が流れる前の、真っ暗で無音の一瞬にぶわーっと涙があふれて止まらなくなった。
今、この映画を見たら、いったいどうなるのかわからない。