キングコングとナルニアを蹴散らしたスプラッター映画「ホステル」と

TomoMachi2006-01-12

先週の全米興行で『ナルニア』と『キングコング』を蹴散らしてトップを獲得した『ホステル』を観た。


カリフォルニアからヨーロッパ旅行に来た二十歳そこそこのバックパッカー、パックスとジョッシュはアムステルダムユースホステルアイスランドから来た中年男と意気投合し、というかモテない同士でつるんで、ナンパに乗り出す。
最初はディスコで女の子を引っ掛けようとするが、慣れないのでうまくいかない。
アムステルダム名物の合法娼館にも行くが、ジョッシュはスケベなくせに風俗にはなじめず店を出てしまう。
結局、何の成果もなくホステルに戻った三人は、自分たちより遥かにイケてないキモメン君から彼がスロバキアでモテモテだった体験談(ケータイ写真の証拠つき)を聞かされる。
「そのホステルの客はみんな超スゲえ美人ばかりで、しかもすぐにヤラせてくれるんだ。
特に君らみたいなアメリカ人はアメリカ人というだけで東欧ではモテモテだぜ」


スケベ三人組はさっそくスロバキアを目指した。
目的のホステルはホステルには見えないほど豪華な邸宅で、相部屋になったのはスーパーモデル級の超美女たち。しかもいきなり、させてくれた。
「キャッホー! あいつが教えてくれたことはマジ、本当だったんだ!」


もちろん、そんなうまい話があるわけがない。


三池崇史監督が突然登場し、主人公にこう警告する。
「Be Careful. You could spend all your money(気をつけな。いくら金があっても足りないくらい病み付きになるぜ)」
なぜ、日本人の三池さんがスロバキアの田舎町にいるのか?
その理由がわかった時、観客はすでに、指を切り、腹をえぐり、××を引き裂き、○○が噴き出す徹底的な人体解剖スプラッターのジェットコースターに乗っている。


『ホステル』の監督は33歳のイーライ・ロス
エグゼクティブ・プロデューサーは先輩クエンティン・タランティーノ
イーライ・ロスはハチャメチャ・ホラーだった前作『キャビンフィーバー』とは打って変わって『ホステル』は前半一時間、ホラー的要素を抑えて、じっくりエロ三人組のチン道中を見せていく。
後半の約40分は、成人指定にならなかったのが不思議なほどの残虐描写。そのコントラストは、だらしなく残虐シーンを垂れ流す最近のスプラッターとは違う。


また、東欧を舞台にしたことで、『ホステル』は21世紀におけるコロニアリズムオリエンタリズムの問題を、たぶん監督はぜんぜん意識しないで、結果的に描いている。
この映画の主人公たちのように、アメリカ人や日本人で、ヨーロッパやアジアにセックスを求めて旅する男たちは実際に多い。
映画の登場人物が「オレはアメリカ人だが、今までしょっちゅうヨーロッパに来ては女をヤリまくった」と自慢する。
アメリカ人」と聞いただけで色目を使ってくる女性たちも描かれる。
また、外国語がまったくできないのに外国人との恋を期待してヨーロッパを旅する日本の女子大生かOLの二人組も登場する。
優位な国の国民は、下位の国の国民を「愛人化」する。
西欧人は東方(中東・アジア)を女性としてイメージした。それも性的対象として。Female Objectである。
それをサイードは「オリエンタリズム」の最も代表的な例として批判した。
つまり、自分たちの国、社会では満たすことのできない欲望が、自国よりも劣っている(と勝手に考える)地域では満たされると勝手に夢想するわけだ。


日本もかつてアジア諸国を「愛人」として扱ったが、ソ連崩壊後は東欧諸国がその対象になりつつある。
欧米や日本のあちこちの風俗でロシアや東欧の出稼ぎ美女が働き、
彼女たちは欧米人や日本人との国際結婚を求め、
欧米や日本の旅行者がセックスを求めてロシアや東欧に行く。
ロシアや東欧の、外国人が泊まるホテルの周りには、西欧やアメリカや日本の旅人を求めて地元の美女や美男がうろうろしているが、
これは売春ではない。「ホステル」でも金銭は介在しない。
あくまで彼らは恋愛として、モテていると思っている。
しかし、母国でも、西欧でもモテなかったアメリカ人が、東欧に行けばアメリカ人というだけでモテると言われ、それを当然のこととして期待して東欧に行くということは、
やはり本人がモテているわけではない。国同士の力関係が背景にあるのだ。
また、彼らは、東欧の女性はみんなアメリカ人の恋人になりたいのだ、と当然のように考えている。
これはコロニアリズムオリエンタリズムの「現代的な」展開だ。


『ホステル』のスロバキア人たちは、そんな性的植民者たち同士をうまく利用する「ビジネス」を始める。


『ホステル』は、上記のようなオリエンタリズムの問題に無自覚らしく、スロバキア人は単純に悪役になっている(スロバキアの人はこの映画に怒らないのか?)。
本当に悪いのは欧米と日本からセックスを求めて来る「その施設の顧客」たちなのだが。


さて、主人公二人が根本的にモテない奴だとわかるのは、
二人ともセックスでは、女の子が騎乗位で、自分たちはマグロなのだ。