The Squid and The Whale イカとクジラ

TomoMachi2005-11-30

やっと『ブレードランナーの未来世紀ISBN:4896919742映画を観に行けるようになりました。


ノア・バウムバック監督の『The Squid and the Whale(イカとクジラ)』を観た。
タイトルはアメリカ自然博物館に展示されているマッコウクジラとダイオウイカが格闘する巨大な模型のこと。
といってもこれは海洋ドキュメンタリーとかじゃありません。

ノア・バウムバックが高校時代に両親が離婚した体験を描いた自伝的映画。
バウムバックはウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』の共同脚本で、フィリップ役で出演もしている1969年生まれ。
だから舞台は1986年頃のニューヨークになる。
バウムバックの父ジョナサンは映画と文芸の評論家で、母ジョージアも「ヴィレッジ・ヴォイス」紙に今でもバリバリに書いてる映画評論家。
映画評論家同士の夫婦ってどうなんだろ? うちのカミさんは全然映画観ないのでわからないんだけど。

イカとクジラ』の主人公の高校生ジェシーの父(ジェフ・ダニエルズ)は作家としてまったく売れないので大学で文学を教えてメシを食っているうちに五十歳になってしまった。
彼は妻(ローラ・リニー)のことを見下していたが、彼女は「ニューヨーカー」誌で原稿が採用されて売れっ子になり始める。威張ってばかりの夫に愛想をつかした彼女は自分よりも若い男に惹かれていく。
 そして、ジェシーと弟はある日、両親から離婚を告げられる。父は家を出て近くのアパートに暮らすので、子どもたちは両親の家を行ったり来たりすることになる。
 父親役のジェフ・ダニエルズは、ジェフ・ダニエルズは『Mr。ダマー』のジム・キャリーの相棒、『スピード』のキアヌ・リーブスの相棒と、バカの相棒で、もっとバカという役ばっかりだったが、ここでは、妻が付き合う男が本も映画も知らないスポーツマンばかりなので気が狂いそうに怒る悲しいインテリ役。とことんダメオヤジで、30歳も年が違う教え子(アンナ・パキン)に惚れて同居するわ、息子と卓球して負けると本気で怒るわ、息子のGFに喫茶店代をたかるわ、息子のGFを『ブルーベルベット』観に連れてってドン引きされるわ、床に落としたハンバーグを黙って拾って息子に食わせるわ。
 母役のローラ・リニートロントの飛行機で一緒になったなあ。『トゥルーマン・ショー』のバーチャル奥さんだったけど、ここでは完全にすっぴんで高校生の母を演じてます。
 両親の離婚のせいで中学生の弟はトラウマでおかしくなって、ザーメンを図書館の本に塗ったり、好きな女の子のロッカーに塗ったりの異常行動を始める。このへんはみんなバウムバックたちに起こった実話だそうだ。


で、何が「イカとクジラ」かというと、ジェシーは小さかった頃、ニューヨークの自然博物館に行った時、格闘するイカとクジラが怖くて泣き出して、それ以来ずっと観ていない。
泣いたのは、実はイカとクジラが両親のケンカを思わせたからだ。
そんなジェシーが、両親は完璧じゃない、しょせん男と女なんだ、と、人間として見つめることができるようになるまでの映画だ。

 両親が離婚する直前、離婚を思いとどまらせようと、ジェシーはギターで、ピンクフロイドの「ヘイ・ユー」を弾き語りする。これは『ザ・ウォール』で妻との不仲に苦しむ主人公の気持ちを歌っている。
 
Hey you! don't tell me there's no hope at all
ねえ! もう何の望みもないなんて言わないでおくれ
Together we stand, divided we fall
一緒にいれば頑張れるけど、分かれてしまったらおしまいだよ


これはUnited we stand, divided we fall.(団結すれば立てるが、分裂すれば倒れる)という南北戦争時のリンカーンの言葉からきてるのかな。両親は歌詞の意味をわかってくれないけど。

両親が不仲だと子どもは「神様、いいこになりますからパパとママを分かれさせないでください」とかお祈りしたりして辛いんだ。自分が悪い子だから両親がケンカしてるんだと思い込んだりしてね。
うちもそうだったから身にしみるよ。