『戦闘機対戦車』DVDのライナー書きました!

キングレコードからDVD化された『戦闘機対戦車』のライナー書きました!

戦闘機対戦車 [DVD]

戦闘機対戦車 [DVD]

 初めて『戦闘機対戦車』を観たのは、1975年頃、NET(現在のテレビ朝日)の『土曜映画劇場』だった。
 主要登場人物わずか4人。基本的に一台の戦車が、一機の飛べなくなった戦闘機を追い続けるだけ。背景は何もない砂漠。このシンプルすぎる要素で、これほど面白い映画になるなんて! 当時中学生の筆者は舌を巻いたものだった。
 解説の筈見有弘さんが「この映画はテレビ・ムービーです」と言ったのを覚えている。
 TV放送のために作られた映画、TVムービーの歴史は古い。最初の一本は、1964年にヘミングウェイの短編をドン・シーゲル監督が映画化した『殺し屋たち』……になるはずだった。しかし内容が暴力的すぎるため、放送は中止され、劇場公開された。それを製作したユニバーサルは同じ年にサスペンス映画『小さな逃亡者』を製作、これがアメリカで最初のTVムービーとなった。監督はデヴィッド・ローウェル・リッチ。そして73年、やはりユニバーサルで、リッチ監督がTVシリーズ『モッズ特捜隊』のプロデューサー、ハーブ・ベネットと組んで撮ったのが『戦闘機対戦車』である。
 これを初めて観たときにまず連想したのは『激突!』(71年)だ。『激突!』もTVムービーだったが、面白すぎてTVにはもったいないという理由でアメリカ以外では劇場公開された。いわずとしれたスティーブン・スピルバーグ監督の出世作だ。現代のアメリカの砂漠で、セールスマンの乗用車が巨大なタンクローリーに延々と追われる恐怖映画『激突!』は、原題を「死闘」という。『戦闘機対戦車』の原題は「死のレース」だから、発想の元は『激突!』だったのかもしれない。同じユニバーサルの製作でもある。
 また、ハンフリー・ボガート主演の『サハラ戦車隊』も『戦闘機対戦車』に大きな影響を与えたに違いない。北アフリカ戦線で本隊とはぐれた一台の米軍戦車がドイツ軍の追撃を受けながら砂漠を逃げる物語で、戦車一台でも腕次第で立派な戦争映画になることを示した傑作。ちなみにこれは実際の北アフリカ戦線の翌43年に作られた。
 しかし、『戦闘機対戦車』はたんに予算不足をアイデアでカバーしただけのTVムービーではない。「戦争映画」としてよくできているのだ。
 1942年、第二次世界大戦北アフリカ戦線、エル・アラメインの戦いが終わったところから物語は始まる。それまで負け知らずだったロンメル元帥率いる枢軸国軍(ドイツ・イタリア)は、当時イギリス領だったエジプトに侵攻したが、港町エル・アラメインで、アメリカも参戦した連合軍の大反攻にあった。11月4日にロンメルは総員退却を命じ、連合軍にとって最初の大勝利となった。ここからヨーロッパ全体の戦局が逆転していく。
『戦闘機対戦車』の主人公、カルペッパー中尉は米軍のP40戦闘機の操縦士。カーティス社製P40は当時大量に作られ、太平洋戦争で日本軍とも戦ったが、旋回性能などは平凡で、ゼロ戦の敵ではなかったそうだ。
 P40は、ドイツ航空戦力による英国侵略バトル・オブ・ブリテンで多くの戦闘機を失ったイギリス軍にも供与された。劇中で英国籍のP40に乗るマクミランアメリカ人で、英国軍内の米人部隊であるイーグル飛行中隊にいたと言う。イギリスとドイツの航空戦が始まっていた時、アメリカはまだ参戦していなかったが、空戦の経験を求めて200人ほどのアメリカ人パイロットが英国のために戦った。『荒鷲戦隊』(51年)という映画にもなっている。
 二人の任務はドイツ軍が残していった地雷原を爆破すること。ロンメルは44万個もの地雷を埋めさせ、その地雷原は「悪魔の花園」と呼ばれた。これはクライマックスの伏線になる。
 対するドイツ軍の戦車には、北アフリカ戦線で米軍の主力戦車だったM4シャーマンが使われている。ただ、砲塔などを改造して、ドイツ軍の4号戦車G型(75㎜砲搭載)を再現している。撃ち終わった主砲の空薬莢を小さな窓から排出するリアリズムに当時タミヤのプラモデルに夢中だった筆者は興奮したものだ。
 カルペッパー役のダグ・マクルーアは、ハーブ・ベネットのTVムービー第1作『空中大脱走』(71年、日本では劇場公開)に続いての主演。そちらでは第二次大戦中の諜報部員で、断崖の古城にあるドイツ軍の捕虜収容所から要人を連れて脱走するため、手製のグライダーでスイスに向かって飛ぶ。奇想天外な話だが実際にコルディッツ城の収容所で捕虜がグライダーを作っていた実話に基づいている(実際は飛ぶ前に終戦した)。『戦闘機対戦車』でマクルーアが演じるカルペッパーは、戦争に対してどこか覚めていて、命令に逆らって爆弾を捨ててしまう、アメリカ人の自由気ままさを代表するようなキャラクターだ。
 同じアメリカ人でも、志願兵であり、戦意に満ち溢れるマクミラン役のロイ・シネスの代表作はTVシリーズ『インベーダー』(67〜68年)。宇宙からの侵略者が密かに人間たちになりすましていると知った主人公が誰にも信じてもらえないまま戦うパラノイア的ドラマだった。シネス主演では『サンダーバード』や『謎の円盤UFO』の21世紀プロ製作の『決死圏SOS宇宙船』(69年)も印象深い。宇宙船のパイロットが地球に帰還したと思ったら、そこは地球の反対側にある何もかも地球そっくりの惑星だったという奇妙なSFだった。『戦闘機対戦車』でのマクミランは軍務に忠実なあまり、敗走する無抵抗のドイツ兵を非情にも空から銃撃するが、そこから彼の悲劇が始まる。
 ドイツ軍の戦車長ステファー役のエリック・ブレーデンは本当にドイツ生まれのドイツ人俳優。60年代からアメリカのテレビでドイツ人を演じていた。筆者にとっては『地球爆破作戦』(70年)の主役フォービン博士役が忘れられない。博士は、米軍の戦略核ミサイルをコントロールするスーパーコンピュータ「コロッサス」を開発するが、それがソ連のコンピュータと手を組んで人類を支配してしまうのだ。また、ブレーデンは『タイタニック』(99年)で、船と運命を共にする大富豪ジョン・ジェイコブ・アスター4世を演じていた。
 そして何よりも忘れ難いのがパイムラー将軍を怪演するロイド・ブリッジス。今ではジェフ・ブリッジスの父として、または、『フライング・ハイ』や『ホット・ショット』などのバカ映画の常連として知られるブリッジスだが、新人の頃、『サハラ戦車隊』で砂漠でドイツ軍に追われる新兵を演じていた。
 パイムラーが部下にウソまでついて無意味な戦いに突き進むのは、自国を破滅的な戦争に導いた枢軸国の指導者たちの象徴に見える。バイムラーをヒットラーと見ると、優秀な戦車長ステファーにはロンメルが重なってくる。兵を無駄に死なせたくないロンメルは早期撤退を提言したがヒットラーはそれを許さなかった。その後、ドイツを救うため連合軍との和平を望む一派がヒットラー暗殺を計画し、ロンメルはその計画に加わった容疑で服毒自殺を強要された。
 ステファー戦車長がアメリカ兵カルペッパーに水筒を差し出すラストシーンは名作『眼下の敵』(57年)を彷彿させる。ドイツのUボートアメリカの駆逐艦の追いつ追われつの一騎討ち。死力を尽くしたチェス・ゲームの果て、両者相撃ちとなるが、両軍の兵士は果敢に協力して相手を助けあう。そして駆逐艦の艦長ロバート・ミッチャムは、Uボートの艦長クルト・ユルゲンスに尊敬を込めてタバコを差し出すのだ。