統一教会製作の幻の大作『仁川(インチョン)』ビデオ入手!

TomoMachi2006-03-10

 うわはははははは。
 ハリウッドから家に帰ったら、『仁川(インチョン)』のVHSビデオが届いていた。
『インチョン』は、統一教会が作った超大作朝鮮戦争映画にしてラジー賞各部門独占の大バカ映画。
 映画秘宝に原稿を書いた時点ではビデオが届いてなかったんで資料だけで原稿を書いたけど、今頃になってやっと届いたので中身を報告しよう。

 なにしろこの映画、公開してみると大コケで酷評されて大恥をかいたので、その後、再上映もビデオ発売もテレビ放送もないまま「封印」されているといわれる映画なのだ。
とんでもないことに、莫大な製作費を寄付した日本の信者すらまだ観ていない! という映画なのだよ。
 

 で、そのビデオをどうやって手に入れたかというと、アメリカにはどんなビデオも探してくれるウラ業界があって、リチャード・レスターの『不思議な世界』や、ジーン・ロッデンベリーの『人造人間クエスター』もそこが見つけてくれたのだ。

 で、さっそく『インチョン』、再生してみました。
 右下隅にGoodlife TV Networkと入っているので、どうも統一教会が所有するケーブルTVか何かで放送されたのを録画したらしい。なんだ放送したことあるんじゃん。
 いきなりメインタイトルで金日成朝鮮半島全土の征服を目指して38度線を突破!
 まあ、とにかく、スタッフがすごい。当時、映画ファンは、ハリウッド一流の豪華スタッフの顔合わせに驚いた。
 まず、監督は007シリーズの巨匠、テレンス・ヤング

 撮影は『ダーティハリー』の巨匠、ブルース・サーティーズ!

 音楽は『パットン大戦車軍団』の巨匠、ジェリー・ゴールドスミス

 製作は……

 このイシイ・ミツハルってのは当時の勝共連合世界日報のボスだ。
 そして……

 来たーっ! 統一教会の教祖、文鮮明


 文鮮明が『インチョン』を作ろうとしたきっかけは有名で、70年代のある日、彼の目から涙が突然流れ出して止まらなくなったという。
何をしても止まらなかった涙は、映画館に行ったらピタリと止まった(なんで映画館に行ったの?)。
 ブンちゃんは思った。「これは『映画を作れ』という神のお告げだ」(なんでそうなるの?)
 そして「神の真理を広める大作映画十五連発、総製作費10億ドル(一千億円!)」という企画をぶちあげた。その第一作が『インチョン』なのだ。
 1950年、北朝鮮軍が突然南下し、いっきに朝鮮半島の8割を占領した。これに対して国連軍を指揮するマッカーサー司令官は敵の腹部にあたるインチョン(仁川)に捨て身の上陸急襲作戦を敢行。北朝鮮軍を北に押し戻した。これがどうして「神の真理を広める映画」なの? 文ちゃんは言う。「きっとマッカーサーは神のお告げを聞いたに違いない」(だから、なんでそうなるのってばよー?)



 主役のアーカンソー生まれのマッカーサー役にはなぜかシェイクスピア俳優のローレンス・オリヴィエがギャラ1億円で雇われた、

 ところが俳優やスタッフは後で統一教会が製作と知り「本当に金もらえるの?」とパニくったのでギャラは現金で支払われた。
 撮影は契約期間を超えてもダラダラと続き、ケチなオリヴィエは毎週現金で追加のギャラを要求。札束入りのスーツケースがロケ現場にヘリコプターで届けられた。 


 でも、ドラマの主役は、マッカーサーじゃなくてベン・ギャザラ扮する海兵隊員。
 ベンは三船敏郎扮する元帝国軍人の斉藤サンさんと親しくて、二人で仏教と平和について語ってたりする。


 実はベンのお目当ては斉藤サンと韓国人の妻との間に生まれた娘で、この男はジャクリーン・ビセットという妻がいるにもかかわらず、斉藤サンの娘と不倫している。


 で、放っておかれた妻ビセットはソウル近郊にいたところを北朝鮮軍に追われて避難民と共にプサン目指して地獄の逃避行をするはめになる。
 という昼メロみたいなつまんねえドラマが中心で、テレンス・ヤング流のエロと暴力の骨太アクションにはならないんだよ!


 クライマックス、マッカーサーは仁川に捨て身の突入を決意、ベンと斉藤サンとその娘はニンジャみたいな格好で、上陸地点にある灯台を急襲、世界のミフネ、マシンガン乱射して大活躍!


 日本のサムライ斎藤サン父娘のおかげで、戦史に残る奇襲作戦インチョン上陸は可能になったのだ!(ホントかよ)。
 ちなみにこの映画、北朝鮮軍は女子供をステンマークでバリバリ殺しまくる殺戮マシーンで、韓国人はただひたすら殺されるだけで全然抵抗しないフヌケに描かれていて、しかも、両方ともほとんどセリフはなく、頑張ったのはアメリカ人と斎藤サンとその娘だけという内容。


 この映画の撮影は77年から始まったが、プロデューサーが素人なので段取りはボロボロ。クライマックスの仁川上陸作戦では米韓混合スタッフの言葉の壁のために、舟艇が反対側に行ってしまって撮り直し。数億円の損。マッカーサーが去って行くラストシーンも二回撮影に失敗して数億円のムダ。


 かくして製作費4800万ドル(約50億円)という記録的大作『インチョン』は5年の歳月を経てついに完成した。
 カンヌ映画祭で上映されたが、あまりの退屈さにブーイングの嵐。
三時間以上のフィルムを半分に再編集してアメリカで公開したが、チケットに賞金一億円の宝くじまでつけたのに、興収はわずか2億円。
ゴールデンラズベリー賞では作品賞以下5部門を独占。
『インチョン』はその後ビデオもDVDも発売されていない。
もちろん全十五作の神の真理シリーズも立ち消え。
きっと信者は「悪いのは文尊師じゃない。お告げをした神だ」と思ってるんだろうな。