トロント映画祭⑥ヒストリー・オブ・バイオレンス

TomoMachi2005-09-15

朝6時の飛行機でトロントからニューヨークJFK空港に飛ぶ。
空港からタクシーでパークアヴェニューのリージェンシー・ホテルに直行。
ぎりぎりセーフで朝10時からの「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のインタビューに間に合った。


パブリシストの女性が「飛行機欠航したんでしょ。なんとか来られて良かったわね」と言った。
ローラ・リニートロントから飛行機が飛ばなくて困ったんですって」
僕、彼女と同じ飛行機でしたよ!
「あら、そうなの! 彼女はさっき、TODAY(NYから放送されるモーニングショー)に出てたわよ。この番組に出ることになってたから、トロントから自動車で夜通し8時間飛ばして、NYに着いたばかりだって!」
それで、昨日、彼女はあんなに真っ青になってたのか!
しかし、たいしたプロ根性だ。


インタビューでは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』主演のヴィゴ・モーテンセンデヴィッド・クローネンバーグ監督、それにギャング役のウィリアム・ハートに会った。
 これはアメリカについての映画だ。
 主人公トム(ヴィゴ・モーテンセン)はインディアナの田舎町でダイナーを営む平凡な父親。
 しかし、ある日、強盗を素手で倒したことでマスコミに注目されてしまう。
 そして、彼を訪ねて、片目のギャング(エド・ハリス)が店に現れる。
「ジョーイ、ひさしぶりだな」
「人違いでしょう? 私はトムですが」
「ジョーイ、相変わらず人殺しが上手だなあ」
  トムは、実は若い頃、ジョーイというギャングの殺し屋だった。
  そのギャングの片目をえぐったのも彼だったのだ。
 復讐のため、ギャングたちがトムの家族に襲いかかる。
この発端部は以前に紹介した原作コミックと同じだけど、中盤以降の展開は映画独自のもの。


 これは話としては西部劇だ。かつてのガンマンが静かに農民として暮らそうとする話と同じだ。また、ヤクザの過去を隠した板前の話として高倉健の主演映画になってもおかしくはない。
 ところが、この映画のトムはそんなヒーローにならない。
 彼の暴力はいつものクローネンバーグ調で、リアルで残虐に描かれるからだ。
「暴力とは肉体を損傷することだ。正義の暴力だって同じだ」クローネンバーグはインタビューで語った。
「戦争も同じだ。どんな理由があろうと暴力は暴力だ。暴力は暴力を生む。ブッシュ政権は西部劇のメンタリティーを現実の政治に持ち込んでいる。もちろん、この映画はアメリカの現状と無縁ではないよ」

 モーテンセンは一つの質問に対して遠くを見ながら抽象的な答えを延々と話し続ける不思議な男だった。
 しかし、いちばんヘンテコだったのは彼の兄を演じるウィリアム・ハートだった。
 明らかに酔っていた。
そして「ランディ・ニューマンの『ルイジアナ1927』って歌を知ってるかい? 1927年のニューオリンズの大洪水を歌った歌なんだが……」と言って歌を歌い始めた。
Some people got lost in the flood
あの洪水で亡くなった人々がいる

Some people got away alright
逃げ延びた人々もいる

The river have busted through cleard down to Plaquemines
川はあふれ、プラクマインズにまで達した

Six feet of water in the streets of Evangelne
エヴァンジェリンの街には深さ6フィートの水に沈んだ

Louisiana, Louisiana
ルイジアナ ルイジアナ

They're tyrin' to wash us away
奴らは僕らを洗い流そうとしている

President Coolidge came down in a railroad train
クーリッジ大統領は列車でやって来た

With a little fat man with a note-pad in his hand
ノートを持った小さな太った男を連れて

The President say, "Little fat man isn't it a shame what the river has
done to this poor crackers land."
大統領は言った。「この川のせいで貧乏人どもの土地がけっこう悲惨なことになったじゃないか」


 この1927年の洪水での共和党のクーリッジ大統領の黒人の被害者に対するぞんざいな態度が原因で、それ以来、黒人は民主党を支持するようになったと言われている(南北戦争で奴隷を解放したリンカーン共和党だった)。

「この歌は1974年に書かれた歌だけど、まったく今回のことを予言してるじゃないか」
ウィリアム・ハートは半泣きで言った。
うなずくしかないけど、映画と関係ないよ。困ったね。


インタビューが終わるとすぐにオークランドに飛んだ。
NYにいた時間はわずか5時間ほどだった。
飛行機の中のテレビでは『愛しのローズマリー』を放送してた。
何度観てもこれは涙の出る傑作ですよ。