『セブン・サイコパス』は『その男たち凶暴につき』


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町山の連載「USAレポート」は「セブン・サイコパズ」。

町山 「7人もの」ってジャンルあるよね?
――『七人の侍』から始まって、『荒野の七人』『黄金の七人』『ワイルド7』……。
町山 で、今回は『セブン・サイコパズ』って映画。
――「サイコパス」じゃなくて?
町山 Psychopathsと複数形だから。
――どっちにしろ放送しにくいタイトルですね。
町山 サイコパスって言葉は放送禁止じゃないよ。精神異常じゃなくて人格障害で、病気じゃない。壊れてない。正常に機能してる。銃が正常に機能して人を殺すみたいに。
――その表現微妙ですね。
町山 社会で成功したサイコパスも多いよ。×××とか×××とか××××とか。
――わー、やめましょう。
町山 監督は『ヒットマンズ・レクイエム』のマーティン・マクドナー
――殺し屋たちがベルギーでだらだら過ごす映画でしたね。
町山 まあ、『パルプ・フィクション』の影響で山ほど作られたノワール・コメディだよね。今回もそういうノワコメ。
――そんなジャンル名ないですよ。どんな話なんですか?
町山 『7人のサイコパス』って映画の脚本を書くシナリオ・ライターの話。
――なんだそれ。
町山 ハリウッドに住んでいる売れない脚本家コリン・ファレルが『7人のサイコパス』ってタイトルを思いつくけど話が出てこない。
――タイトルだけですか!
町山 ひとつだけ書いたのは、娘を殺されたクエイカー教徒の話。犯人に復讐したいけど、クエイカー教徒は一切の暴力を禁止している。だから、何もしないで、ただ犯人にストーカーし続けて精神的に追い詰めて殺そうとする。
――面白そうじゃないですか。
町山 でも、その話も友人の売れない俳優サム・ロックウェルがくれたネタ。要するにコリン・ファレルはまるでアイデアがない脚本家なの。で、ロックウェルがネタのためにコリン・ファレルの名前で勝手に新聞広告を出す。「サイコパスの人、面白い体験談を教えてください」
――危ないのが来ちゃうじゃないですか!
町山 応募してきた爺さんは、未解決の連続殺人事件の犯人を全部殺した正義の殺人鬼だと言う。1946年にテキサカーナで月夜の晩に8人を殺したファントム・キラーも、1968年から5人を殺したゾディアックも、彼が奥さんと一緒に処刑したって。
――いい奴……なんですかね?
町山 いっぽうロックウェルはバイトでペット誘拐をしている。ビバリーヒルズの大金持ちの愛犬を盗んで、クリストファー・ウォーケンが返しに行って謝礼をもらうサギ商売。
――せこいですねー。
町山 ところがギャングのボス(ウディ・ハレルソン)が大事にしていたチンを盗んだから命を狙われる。ロックウェルは大興奮。「七人の特殊技能を持った正義のサイコパスがギャングと戦う映画になるぞー!」
――映画と現実区別ついてないですね。
町山 面白いのは、ファレルたちが「こんな話はどうだ?」って言うと、そのアイデアがどんどん映像化される。途中で「いや、こういう展開のほうが」って違うバージョンでやり直したりして試行錯誤するわけ。
――北野武の『監督ばんざい!』みたいですね。
町山 そうなんだよ! ちゃんとファレルたちがたけしの『その男、凶暴につき』を観るシーンまであるからね!
――脚本家の試行錯誤を映像化した映画はフェリーニの『81/2』が元祖ですけど、そっちは『セブン・サイコパズ』とは関係なさそうですね。
町山 いや、『ピンクレディの活動大写真』の影響かも。
――それはないって!