福音派サブカルチャーその1

TomoMachi2004-11-07

10月15日、週刊プレイボーイ編集部の長谷川さんから原稿依頼のメールが来た。
アメリカ大統領選直前レポート! ブッシュ落選がハッキリ見えた!」というタイトルで、ブッシュは負けるだろうという原稿を書いてくれというのだ。その前の週までオイラが「ロッカーも俳優も学生もみんな反ブッシュ!」という記事を書いていたのだから彼がそう思ったのも当然だ。しかし……。
オイラはすぐに返事を書いた。
「本当に残念ですが、ブッシュは勝つ可能性が高いです。その理由を書かせてください」
そして翌週の週プレ井上和香が表紙の号)に掲載されたのが「それでもケリーが勝てないこれだけの理由」という4ページの記事だ。


内容はこの日記の10月27日から6回にわたって掲載した「ブッシュが勝つかもしれない理由」とほとんど同じで、要点は以下の三つ。
1「勝敗を決する接戦州の中西部のブルーカラーを宗教や党派よりも強く動かすのは東部のインテリや西海岸の芸能人への反感だ」
2「ブッシュの支持基盤は国民の4割に達するというキリスト教福音派で、政策と無関係にゲイ結婚や中絶に反対しているブッシュに投票する」
3「たとえブッシュが得票数が少なくても下院や最高裁の決議、もしくは不正によって、どう転んでもブッシュが勝つようになっている」
 この予測は残念ながら的中した。


しかし、なぜ、急にそんなことを言い出したのか言っておこう。
まず一番大きなのは『チーム・アメリカ』を観て、ノンポリを自称するコロラド出身の若者の、政治的なハリウッド・スターに対する「理屈を超えた生理的な」反感を見せつけられたからだ。それは日記にも書いたとおり。
そして、2の福音派キリスト教徒の力を急に思い出したのは、たまたま、12月に太田出版から出る単行本のゲラを読んでいたからだ。三年前に自分がTVブロスに書いた「バイブルマン」についてのエッセイを読み直したのである。


「バイブルマン」は、早い話、クリスチャンの子供のための特撮変身ヒーローだ。
バイブルマンの武器はキックやミサイルではなく、聖書だ。たとえば悪の貴公子プリンス・オブ・プライドの「エゴ肥大光線」を浴びた人々がみんな自身満々で嫌な奴になってしまうと、バイブルマンが登場して聖書を取り出して引用する。「自分の口で自分を誉めるな――箴言27章2節」
ドラッグの売人には「つまづきとなるもの、妨げとなるものを兄弟の前に置くなかれ――ローマ信徒への手紙14章13節」と言い聞かせる。
 そのバイブルマンも、悪役シャドウ・オブ・ダウトに聖書の矛盾点を突っ込まれて進行が揺らいでしまう。でも、バイブルマンは「無意味な不平を漏らすな。ひそかなつぶやきもただでは済まされぬ――知恵の書1章11節」の言葉に目覚めて信仰を取り戻す。
この『バイブルマン』は福音派向けのケーブルTVなどで放送され(筆者は「700クラブ」という福音派向けバラエティ番組の中で初めて見た)、『パワーレンジャー』など子供に見せたくないと思う親たちに大好評で、ビデオも売れてるし、バイブルマン・ショーはいつも満員らしい。


実はこういう特撮変身ものだけでなく、ありとあらゆる大衆文化に、そのクリスチャン版がある。クリスチャン専門ニュース・チャンネル、クリスチャン・アニメ、クリスチャン・コメディ(漫談)、クリスチャンTVゲーム、クリスチャン・アクション映画、クリスチャン・コミック(マンガ)、クリスチャン出逢い系サイト、クリスチャン・ポルノまであるんだ!


アメリカの福音派は現代の大衆文化を汚れたものとして拒否する。しかし、その代わり、まったく同じもののクリスチャン版を作り、それが一つの巨大産業になっている。それは福音派がいかに強大な勢力であるかを証明している。


なかでも層の厚さに驚かされるのがCCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)である。そこには福音派向けアイドル、福音派向けヘビメタ、福音派向けハードコアパンク福音派向けスカ、福音派向けデスメタル福音派向けテクノ、福音派向けギャングスタ・ラップなど、あらゆる音楽ジャンルの福音派版があるのだ(続く)。