昨日の続き

TomoMachi2004-03-25

2001年9月11日、世界貿易センタービル他への同時多発テロが起こるとアメリカのメディアから笑いが消えた。
いつも時事ネタのギャグを飛ばしている夜のトーク・ショーも、全米最高の人気お笑い番組サタデー・ナイト・ライブ」も放送を自粛。全米のコメディクラブも営業を中止した。
新聞は毎日10本以上の4コマ漫画を並べているのだが、そちらのほうはテロを一切無視した。まるで何事もなかったように、お魚くわえたドラネコ追いかけて、とか、買い物に出かけて財布を忘れて、とか、あたりさわりのない日常ほのぼのギャグを続けたのだ。
ただ、『ブーンドックス』だけは違った。
テロの当日入稿の分から徹底してテロをギャグにしていったのだ。
それも、テロでブッシュ大統領の支持率が急上昇し、国民の大半が報復攻撃を求めている体制翼賛ムードの真っ只中で、それに真っ向から逆らってブッシュ批判をやり続けたのだ。
主人公の黒人小学生ヒューイは、FBIのテロリスト情報ホットラインに電話して、「アフガンの手助けをした悪党を知ってます」と通報する。
「奴は今年5月にアフガン政府に60億円もの援助をしたんですよ。この5月に! 今すぐ奴を逮捕してください! ホワイトハウスにいますから! きつーい手錠を用意してください!」
 テロ以降、ナショナリズムは高まる一方で、アメリカ中の建物に星条旗が掲げられ、道行く車にも小さな旗がはためき、胸に星条旗を意味する三色リボンを飾って愛国者を気取る人々が増えた。その星条旗ブームもヒューイは信じない。
「政府はテロリストの資金源を封鎖しようとしてるが、もし自分がテロリストだとしたら、今、何がいちばん儲かると思う? 星条旗こそがテロの資金源だ!」
見かねた親友のシーザーが忠告する。
「ヒューイ、もうテロの話題はやめようよ。大統領はアメリカ国民に平時に戻るよう呼びかけ続けているんだし」
「平時だって? オイラが平時にやってることは何?」
「……ブッシュ叩き」
「じゃあ、オイラがブッシュ叩きを自粛したらテロに屈することになるじゃん!」
「……君とつきあってるとキューバに亡命するハメになるかもな」
ブーンドックス』の作者、アーロン・マグルーダーは言う。「他の4コマ漫画みたいに、何事もなかったようにいつものギャグを続けてもいいさ。パフ・ダディをからかったりね。でも、そんな場合じゃないだろ」
 案の定、「『ブーンドックス』は非国民マンガだ!」という抗議が各新聞社に殺到し、ニューヨークとテキサスの新聞は掲載を取り止め、クロスワード・パズルに差し替えた。
 テロから一ヶ月目の10月17日、ついに全米の新聞が一斉に『ブーンドックス』の掲載を中止した。
「編集部からお知らせです。このマンガは政治的に不適切なため、連載を中止し、今回から愛国マンガ『星条旗クンと三色リボンちゃん』を始めます」
もちろんこれは全部アーロンのジョーク。やるねえ!
幻冬舎から出る単行本には連載開始から2003年のイラク攻撃直前までの『ブーンドクッス』のベスト作品が集められてますので、是非、読んでください。
現在、『ブーンドックス』はTVアニメ化が進行中だそうです。