石原慎太郎に捧げられた『ルック・バック・イン・アンガー』

ルック・バック・イン・アンガー

ルック・バック・イン・アンガー

 読み始めたと思ったら、2時間でいっきに読んでしまった。
 とにかく強烈だ。バスドラ連打のスラッシュメタルのアルバムのようだ。表紙はおとなしすぎないか?

 
 タイトルはイギリスの反抗ムーブメント「怒れる若者たち」の命名のきっかけになった文学と映画『怒りを胸に振りかえれ』の原題から。
 すぐにブチキレてケンカばかりしているギャラガー兄弟が『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』なんて歌ったときはセラピーの歌かと思った。
 エロ本出版社に勤務する4人の編集者それぞれの物語の連作。
 序文に「実在するアダルト本出版社とその周辺で起こった実際の出来事(1990年から2003年まで)を元にしている」と書いてあり、
 あとがきに、著者樋口毅宏が勤務していたコアマガジン社、とはっきり書いてある。
 だから文中で「カレリン」となっている雑誌は「ブブカ」のことだ。

 
 4人の編集者の一人、白鳥は次々と女性を操り、性奴隷に調教していく。
 谷逸馬は、ただ酒を浴びるように飲み、崩壊していく。
 蜂村キリは、凄まじいブ男だが、麻原彰晃のようなカリスマ性で男も女も信者にしていく。
 貝原茂吉は、その巨根で、応募してきた読者をやりまくる。
 コアマガジン社はこんな犯罪者どもの集まりなのか!?!?!?!?!


 とにかく全編に怒り、憎しみ、怨み、サディズムマゾヒズム、切なさ、孤独がみなぎり、一文一文がナイフのように鋭く読者に向けられている。


 帯には「この小説を石原慎太郎に捧ぐ」と書かれているが、なぜエロ本編集者の話が?と思ったら最後はそこに突っ込むか!
 石原を知事として信奉してる人たちは知らないだろうけど、作家としては彼はこんな小説を書いてたんだよ。


 あと、参考文献に上げられていないが、野坂昭如の「てろてろ」を思い出した。

 
 著者の編集者時代の思い出を描いた小説には椎名誠の「新橋烏森口青春篇」などがあるが、最も無茶苦茶で誠実なパワーと怒りに満ちている。
 オイラも宝島社時代の話をいつか書こうと思ったけど、これを読んで、あきらめた。
 だって、これ以上のものは書けないよ!