オリバー・ストーン監督のブッシュ大統領の伝記映画『W』

TomoMachi2008-10-21

TBSラジオ『ストリーム!』、町山智浩が担当する毎週火曜日午後2時の『コラムの花道』、本日はオリバー・ストーン監督のブッシュ大統領の伝記映画『W』の日本でいちばん早いレビューをお送りします。


これはオリバー・ストーンが単にブッシュを叩くための映画ではなかった。
そのため、左派メディアからも「もっと痛烈な映画かと思った」と批判されたりもしている。
しかし、オリバー・ストーンは、自分と同じ年で、同じイエール大学の学生で、同じく強い父親の支配下で苦しんだブッシュに対して、自分の分身を見るような共感を込めた、同情的とすらいえる描き方をしている。


由緒正しいブッシュ家の長男、W(テキサス訛りでダブヤと読む)こと、ジョージ・W・ブッシュは何をやらせてもダメなボンボンだった。
高校の成績はBばかり、親が裏口入学させたイエール大学でも酒飲んで暴れてばかりで警察に逮捕される。
68年、ベトナム戦争は激化したが、ジョージは父のコネで州兵になることで徴兵を逃れた。父は第二次世界大戦パイロットだったが、ジョージのパイロットの適正テストの結果は最低レベルだった。


卒業した後は、ブッシュ一族の経営する石油会社、投資会社、スポーツ用品店を任されるが、サボってばかりでどれも失敗。


いっぽう、弟ジェブのほうが出来がよく、先に政治家への道を歩み出していた。

長男ジョージは政治にまるで関心がなく、国際問題にいたっては何も知らなかった。
後に結婚するローラに会った時、「私は図書館司書よ」と言われて一瞬怖気づく。なぜなら本ほど嫌いなものはないからだ。


父ブッシュはいつもジョージを「お前はできそこないだ。ブッシュ家の恥だ。弟のほうが出来がいい」と詰るばかりだった。
「お前は何をやらせても人並み以下だ。いったい何がやりたいんだ?」
「パパ、僕は野球が好きなんだ」
「好きなんだ、って見るだけだろ!」(ジョージは高校時代、野球部に入ったがレギュラーになれず、チアリーダー部に移った)。


 いつまでも強い父の下から逃れられず、父からも誰からも認められないジョージ。
 彼は父に認められようと一念発起してテキサス州の下院議員選挙に立候補した。
 ところが当時、南部はまだ南北戦争以来、民主党が支配していた。
 民主党対立候補ケント・ハンスはいかにもテキサスという感じの野卑な男で、ジョージ・W・ブッシュのことを東部のボンボン扱いする。
「貴様、なんでテキサスで立候補したんだ。上品なコネチカット生まれの東部のボンボンのくせに。カウボーイじゃないし、教会にもロクに行かないだろ」
 ブッシュは惨敗した。ところがこれがきっかけで、テキサス訛り、カウボーイ風のよたよた歩き、キリスト教原理主義、というテキサス男のスタイルをコピーしていくことになる。


 何をやってもダメなジョージ・W・ブッシュはついにアルコール中毒へと落ちていく。
 そんなある日、突然、神の光が彼を打った。
 そしてジョージは言う。
「ぼくはアメリカの大統領になる。それが神からの天啓だ」
 しかし、それは、強すぎる父の影から逃れるため、神という別の父にすがっただけだった。


 政治のことは何も知らなかったブッシュはカール・ローヴらスタッフのサポートで州知事から大統領になった。
 そして、ずっと自分を認めてくれなかった父を見返すために、父が出来なかったことをしてやろうと考える。
 それはイラクフセイン政権を滅ぼすことだった。

『W』は『エデンの東』であり、カインの物語である。
カインは神の愛を求めて弟一人を殺しただけだが、
ブッシュは父の愛を求めて3千人を越えるアメリカ兵と十万人を超えるイラク人の命を奪った。


ブッシュは、イラク戦争が泥沼化し、戦争の理由もなかったことが明らかになった後の記者会見で
「あなたは歴史において、どう評価されると思いますか?」と質問された。
「歴史だって?」と当惑したブッシュは「歴史になる頃には私たちはもう死んでるよ」と答えた。歴史的評価など考えたこともないと。
 父との葛藤がすべての動機で、自分のしていることが歴史にとって世界にとって重大であることをまるで認識していなかったのだ。