マイケル・ジャクソンのカストラートみたいな声には元祖がいる。
作家トルーマン・カポーティだ。
昨日の『グッドナイト&グッドラック』もそうだが、自分が観客で一番若かった。
他は全員白髪のおじいちゃんおばあちゃんなのだ。
今の若い子はカポーティとか興味ないんだな。
映画はカポーティが『冷血』を書いた6年間の彼を追う。
1959年、カンザスで起こった一家四人惨殺事件を新聞で知ったカポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、『ニューヨーカー』誌の記事にしようと、カンザスに取材に行く。
取材に同行するのはカポーティの幼馴染で『アラバマ物語』の作者ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)。
最初はとにかくホフマンのカポーティ演技がおかしい。
甲高い声、なよなよ、くねくねした仕草、いかにもゲイなファッション・センス。
カポーティを見るなり保守的なカンザスの警官たちはロコツに「なんだ?このオカマ野郎は」という顔をしてみせる。
カポーティは天才的美少年作家として華々しくデビューした「アイドル作家」だったが、
当時は中年を迎えて、容貌は衰え、小説家として行き詰り、経済的にもうまくいってなかった。
逮捕された犯人ペリーと面会したカポーティは「彼は僕のGoldmine(金を生んでくれるもの)だ」と狂喜する。
この映画はまず、「ノンフィクション作家による取材対象の搾取」がテーマになっている。
カポーティは獄中のペリーに自分の不幸な生い立ちを語って彼に共感を示し、
「世間は君を血も涙もない人殺しだと思っているが、人間としての君を知りたい」と説得してインタビューをとりつける。
貧しく悲惨な彼の生い立ちに同情を見せながら話を聞いていくカポーティだが、
ニューヨークに帰るとプラザホテルのバーあたりでタキシードを着てマティーニのグラス片手に文壇仲間相手に現在書いているノンフィクション・ノベルの自慢話をする。
ペリーはカポーティが自分を取材した本に『冷血』という題名をつけたことを知って裏切られた、と思う。
カポーティはインタビューする前は弁護士を探すなどして死刑を引き伸ばそうとしたが、
インタビューが終わってしまうと、ペリーがいくら懇願しても弁護士探しに協力しない。
ついに死刑執行が近づくと、面会にも行かなくなる。
ペリーからかかってくる電話から逃げ続けるカポーティ。
『冷血』から犯罪ノンフィクション・ノベルというジャンルは始まった。
佐木隆三も『冷血』には大きな影響を受けているはずだ。
しかし、人殺しと、それを書いて利益を得る作家のどっちが冷血なのか?
この『カポーティ』にはもうひとつの見方もある。
犯人であるペリーと共犯のディックとの間にゲイ的な関係が暗示される。
男性的な共犯者ディックに、女性的なペリーは惹かれ、強盗殺人にいたった。
カポーティはペリーの中に自分を見出し、
彼との面会に夢中になっていく。
それを見ているカポーティのゲイの恋人ジャック・ダンフィーは黙っているが、明らかに嫉妬のような感情を抱いている。
これは『羊たちの沈黙』のクラリスとハニバルにも似たラブストーリーでもある。
そして死刑執行の日。
ベッドに引き篭もるカポーティにハーパー・リーはペリーからの電報を読んで聞かせる。
死刑に処される罪人が、彼を利用した作家に書いた言葉は……。