フォーガットン

TomoMachi2005-01-31

ANAの機内誌「スカイ・チャンネル」のために機内映画『フォーガットゥン』の解説を書く。


The Forgottenとは「忘れられた者」という意味。
ジュリアン・ムーア扮するヒロインは、飛行機事故で10歳の息子を亡くし、立ち直れずにいた。
しかし、ある日突然、息子の写真がアルバムから消滅する。
写真だけではなく、息子に関するあらゆる記録が消えてしまう。
ついには夫すら「僕らには最初から子供はいないよ」と言う。
おかしいのはヒロインなのか? それとも……。


この手の「人間消滅もの」は昔から数多くある。なかでも得意としていたのはリチャード・マシスンで、彼がシナリオを書いたMTV「恐怖のドライブイン」(73年)は衝撃だった。
砂漠のドライブインに主人公夫婦が入ってきて、夫がトイレに立つが、いくら待っても帰って来ない。妻が心配になってトイレに行くが、誰もいない。そこで店員や他の客に夫がいなくなってしまったんですが、と訴えると、みんなはこう言うのだ。


「何言ってんだい? あんたは一人で入ってきたよ」


ハヤカワ文庫『激突!』に収められた短編も傑作だ(タイトル失念)。
もともと存在感が希薄だった主人公のまわりから少しずつ、人や物が消えていく。
主人公は消えていく自分の存在を食い止めようとノートを書き留めていき、その手記がこの短編になっているわけだが、次の一文でプッツリと終わっている。


私はいま、一杯のコーヒ


これを夜中に一人で読んでいたときの戦慄といったら!


さて、この映画『フォーガットン』には数ある「人間消滅もの」史上、最もトンデモないオチがつく。
伏線はやたらと使われる高空からの俯瞰ショット。
それはいったい誰の視線なのか……。