CCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)の話の続き。
クリスチャン向けアイドル、
クリスチャン向けヘビメタ、
クリスチャン向けハードコアパンク、
クリスチャン向けスカ、
クリスチャン向けデスメタル、
クリスチャン向けテクノ、
クリスチャン向けギャングスタ・ラップなど、
あらゆる音楽ジャンルの福音派版があり、大きな市場、インダストリーを形成している。
たとえばコロラドのCDショップでは、クラシック売り場と同じくらいの面積をCCMの売り場が占めていた。
クリスチャン・ロックといえば、日本でもストライパーがおなじみ。ヘビメタでキリストの教えを歌う「ホワイト・メタル」と呼ばれていた。
もともとクリスチャン向け音楽は毒にも薬ににもならない健康ポップスが主流だった。ジェシカ・シンプソンやシックスペンス・ノン・ザ・リッチャーはそこからのクロスオーバー組。
しかし、それでは若者がセックスやドラッグやバイオレンスや悪魔を歌う恐ろしい流行歌(要するに一般のロック)に魅了されるのを防げないので、その手の音楽のクリスチャン版が生まれていった。
そうして、福音派メタリカや、福音派グリーンデイ、福音派エミネム、福音派デスチャなどが生まれた。
福音派ハードコアは、クライスト・コアと呼ぶのだが、ミュージシャンはモヒカンやタトゥーやピアスでバリバリで、客もライブでポゴにモッシュにダイビングにヘッドバンギングで狂乱し、それだけ見てると普通のメタルやハードコアのライブと変わらないが、よく見るとタトゥーは十字架やマリア様などすべて聖書に関係するものだし、歌詞もすべて信仰についてのものだ。
どんな音楽かはまあ実際に聴いてもらったほうが早い。
クライスト・コアのバンド、アンレスト(写真)の「ワイドスプレッド」という歌。
この曲そのものはめっちゃカッコいいのでクセになって何度も聴きまくってる。
http://dw.com.com/redir?&destUrl=http%3A%2F%2Fmusic-files.download.com%2Fmp3%2F100335319%2F100340522%2F%2FPublic_Unrest-Widespread.mp3&edId=3&siteId=32&oId=3600-8434_32-100335246&ontId=8434&lop=link&tag=link<ype=dl_192k&astId=2&pid=100335319&mfgId=100335246&merId=100335246
でも歌詞はこんな感じ
「使命だ、使命だ、俺たちは神の使命を帯びている
俺たちはこんなに遠くまでやってきた。
信じられないが、ここまで来たんだ
そして今、俺たちは暗い汚れた世界に囲まれている
でも、イエス様は我とあり
俺たちは決して挫けない。
GO!
We are on the mission! We are on the mission!
スプリングスティーンやボンジョビやREMたちロック・ミュージシャンは、反ブッシュライブ・ツアーVote For Change(変革のために投票せよ)でオハイオ他接戦州を回り、若者たちにケリーへの投票を呼びかけていた。しかし、実は同じ地域を、クリスチャン・ロックの大物バンドたちもRedeem the Vote(投票で贖罪せよ)というライブ・ツアーで回っていたのだ。
http://www.redeemthevote.com/meet_the_artists.html
参加したバンドはクライスト・メタルのジョナ33など約30バンド。後援はもちろん共和党の御用テレビ局FOXニューズ・チャンネルだ。
18歳から33歳までの福音派は全米2500万人もいるという。その票を掘り起こしてブッシュに投票させるのが目的だが、カソリック原理派のメル・ギブソン監督の『パッション』でキリストを演じたジム・カヴィーゼル(カソリック)もこのキャンペーンに参加し、カソリックやユダヤ教徒に対しても「宗教的価値観を守るためブッシュに投票しよう」と呼びかけた。
このイベントが成果を上げたのか、接戦州では民主党の若年層動員に拮抗する数の若年層がブッシュに投票した。
アメリカは信仰によって母国で差別された人々が宗教の自由を求めて築いた国だ。
だから、信仰の自由と政教分離こそが最も大事な理念なのだ。
その自由さによって、ユダヤ人からアジア、そしてイスラム教徒まで、あらゆる信条の者を受け入れ、その混合によって映画やロックをはじめとする「アメリカ文化」を生み出してきた。
多くの外国人をアメリカが惹きつけて来た最大の魅力はその自由な文化であり、筆者もそれを愛してアメリカに移住したのだ。
ところが、そうではなくなりつつある。
ブッシュ大統領と彼を後押しするキリスト教福音派はOne Nation under Godと公言して一神教とナショナリズムを結び付けている。
これは、アメリカ建国の理念と合衆国憲法に反した「政教一致」である。
多いとはいえ、人口の半分かそれ以下しかいない福音派に支えられた大統領が、それ以外のアメリカ人をも支配してしまうのは問題だが、
それ以上に困るのは、
そんな大統領が、アメリカだけでなく、世界一の軍事力を持ち、世界の運命を握っているという点だ。日本も当然それに巻き込まれている。
原理主義者はアルマゲドンによる世界の破滅を信じており、コアな信者はそれを待ち望んでいる。それによってレーガン時代に核戦争の危機が訪れたことは有名だが、今も中東政策にはブッシュの支持基盤である原理主義者の意向は当然反映されている。ブッシュによる莫大なイスラエル支援が中東戦争をアルマゲドン化させようと望む原理主義の意向と関係しているのもよく伝えられている。
先日の大統領選挙でブッシュの対テロ戦争を支持した国民が多かったのも、純粋な安全保障の問題だけでなく、宗教的ニュアンスもあることに注意すべきだろう。調査を見ると、イラク戦争支持者は熱心なキリスト教徒に多い。
実はテロ以来、福音派の説教師たちは、イスラム教徒をTVなどで堂々と悪の帝国と呼んで悪魔視し続けてきたのである。ブッシュはイラクをEvilと呼んだが、その言葉にはキリスト教原理主義的なニュアンスが強くあるのだ。冷戦時代のソ連に代わる宗教上の敵、文字通りの異教徒を見つけたのだろう。この対テロ戦争は、キリスト教原理派にとっては対イスラム原理派戦争という側面も持っているのだ。
キリスト教原理主義のコラムニスト、アン・コールターは「(対テロ戦争の最終目標は)イスラム教徒を殺し、残った者をキリスト教に改宗させること」とはっきり言っている。
Evangelical は福音派と訳されるが、特定の宗派名ではなく本来は「聖書(福音書)の教えに忠実に従おうとする信仰のあり方」なので、「あなたはEvangelicalですか?」と聞かれるとアメリカ人の半数近くがイエスと答えるという。しかしその大半は穏健な中道保守の人々で、狂信的でもなんでもない、普通の音楽も聴いている普通の人々だ。
しかし、今回の選挙ではブッシュのブレイン、カール・ローブとハードコアな原理主義者が「ゲイ結婚にイエスかノーか?」「イスラム教テロにイエスかノーか?」と二者択一を彼らに突きつけたため、ブッシュに投票せざるを得なかった。実際はケリーはゲイ結婚は州に任せるという立場だし、イラク戦争には反対だがテロとの戦いを否定していない。しかし、それを共和党は「ケリーはゲイの味方」「ケリーはテロ戦争に反対」と歪曲して宣伝した。で、国民は右か左か二つに一つと選ばされて、カソリック右派やユダヤ教保守派などと一緒に右側に囲い込まれてしまったというわけだ。
昨日、アメリカはファルージャを総攻撃した。
その前日、ファルージャ突入に備えた海兵隊をルポしたフランスのAFPがこんなニュースを伝えている。
http://www.commondreams.org/headlines04/1107-02.htm
「聖戦/蛮族との戦いに備える福音派海兵隊たち
ファルージャ近くに集結したアメリカ軍において、イラク侵攻以来最大の戦いになる戦闘に備えて、35人の海兵隊員がクリスチャン・ロックに熱狂しながら、イエス・キリストに祈りを捧げていた。神の加護を求めて」
「使命だ、使命だ、俺たちは神の使命を帯びている
俺たちはこんなに遠くまでやってきた。
信じられないが、ここまで来たんだ
そして今、俺たちは暗い汚れた世界に囲まれている
でも、イエス様は我とあり
俺たちは決して挫けない。
GO!」
そして今日、NPR(公共ラジオ)でファルージャ攻撃の実況をしていたのだが、兵士たちは、戦闘車に取り付けられたスピーカーから大音響で鳴り続けるハードコアなロックにアドレナリンをかき立てられながら突撃していったという。
その音楽はラジオからも聴こえたが、クリスチャン・ロックなのか、誰の曲なのかわからなかった。
35年前、数多くのロック・ミュージシャンがベトナム戦争に反対したが戦争を止められなかった。
今年、再びロック・ミュージシャンたちがイラク戦争に反対したがまたしても敗北した。
そして今日、ロックをBGMに総攻撃が行われている。