ホワイトトラッシュからの脱出

TomoMachi2004-05-29

イラク人虐待写真でタバコをくわえて捕虜のチンチンを指差して笑っていた女、リンディ・イングランドは、イラク侵攻時に負傷して英雄扱いされた米兵ジェシカ・リンチと
同じ年齢、同じウェスト・ヴァージニア州の出身で、
同じくホワイト・トラッシュ(貧乏白人)出身だった。


ウェスト・ヴァージニアにはヒルビリーの伝統がある。ヒルビリーヒルは丘、ビリーにはスコットランド系という意味がある。
スコットランド系はイングランド系よりも後にアメリカ南部に移民してきたが、既に農耕可能な土地はイングランド系に占有されていたので、生き残る道は三つだった。
イングランド系の地主の下で、小作人または、黒人奴隷の監視人として働く。
②アパラチアやオザークなどの山地に住み、トウモロコシや豚を育てて貧しく暮らす。
③西部の未開拓地を目指す。

②の人々がヒルビリーとなった。
ヒルビリーの素朴さを称えたドラマが『じゃじゃ馬億万長者』で、ヒルビリーの野蛮さを恐怖した映画が『脱出』である。『脱出』はNYからジョージアの山奥にカヌー遊びに来た広告代理店のヤッピーたちが地元のヒルビリーに襲われ、アナル・レイプやフェラチオで輪姦されるという内容で(『パルプフィクション』の元ネタ)で、今回の事件でイラク兵捕虜への性的虐待の写真を見て、さらにイングランドヒルビリーだと知って、アメリカ人が最初に連想するのは『脱出』である。


さて、リンディ・イングランドは、緑豊かなアパラチア山脈の田舎町に育ち、父は鉄道工夫で、一家は昔も今もトレイラーハウスに住んでいる。イングランドは高校を出てしばらくスーパーに卸す食肉加工場で働き、職場の同僚で幼馴染と結婚したが、すぐに離婚。大学に行く学費と推薦を得るために陸軍の予備役に登録した。
イングランドの父親は「大学の金くらい払えた」と言っているが強がりだろう。なぜならウェスト・ヴァージニアの田舎なら2LDKのアパートの家賃は月400ドル以下である。そこにも住めずにトレイラーハウス(月200ドルつまり2万円以下)から逃げ出せないということは、年収は100万円程度だろう。


ジェシカ・リンチはパレスティナという山奥の町に生まれ育ち、父はトラック運転手だが、それでは生活費が足りないので、土方や、草刈り、薪割り、木材運び、近所の家の掃除、墓堀りまでやって働いた。ジェシカ・リンチは高校を卒業すると、やはり大学に行くために軍隊に志願した。
二人ともホワイト・トラッシュから脱出するために、軍隊に身を投じたが、愛国心あふれる英雄と国辱ものの悪漢とに運命を分かたれた。しかしジェシカ・リンチとリンディ・イングランドは同じコインの裏と表なのだ。


二人を見ていると、十年前にマスコミを騒がせたやはり貧乏白人の娘二人を思い出す。


ナンシー・ケリガントーニャ・ハーディングだ。
ケリガンの母は盲目で、父は溶接工。貧乏から抜け出すため、父親は寝ずに働いてケリガンのスケート学校のお金を作った。ハーディングの父親は職を転々とし、基本的に無職で、ハーディングは親と一緒に道端の空き缶やペットボトルを拾い集めて食事代を稼いでいた。
二人ともホワイトトラッシュから脱出するため、スケートに賭けた。その二人がオリンピックの代表の座を争わされ、ハーディングは夫にケリガンを襲わせた。
マスコミは、ハーディングを貧しさが育てた悪魔、被害者のケリガンを清く貧しい天使として扱った。


こうしたホワイトトラッシュは増えている。
アメリカ経済は80年代以降、株や金融と情報産業が中心になり、生産は労働力の安い海外にアウトソース化していった。そのため国内のブルーカラーは仕事を奪われ、ホワイトカラーとの貧富の差がますます拡大しているのだ。
そしてこのように貧乏なアメリカ人たちを戦争に駆り出して、金持ちのバカ息子ブッシュは石油価格を吊り上げて私腹を肥やしているわけだ。