「エンド・オブ・ウォッチ」は8月17日公開です


8月17日から日本公開の「エンド・オブ・ウォッチ」の公式サイトに映画評を書きました。

 アメリカに刑事映画は山ほどあるが、制服警官を主人公にした映画は少ない。そのなかでベスト3を挙げるなら、リチャード・フライシャー監督の『センチュリアン』(73年)、デニス・ホッパー監督の『カラーズ天使の消えた街』(88年)、そしてこの夏に日本公開される、デヴィッド・エアー監督の『エンド・オブ・ウォッチ』の3本だろう。
実は3本ともロサンジェルス市警の、サウス・セントラル地区を担当する警官コンビの物語だ。
ネリ・ロドリゲス(16歳)、デオンテ・フリーマン(19歳)、アンナ・アルティガ(27歳)、ナサリオ・カリーロ(24歳)、メロディ・ロハス(0歳)、エメリオ・ペレス(17歳)……。これは、サウス・セントラル地区で、2007年から2013年4月までの5年間で殺された被害者67人の名前と年齢。9割が銃による射殺。バラまかれた銃弾は死者数の10倍以上になるだろう。
 アメリカ最悪の犯罪地帯のひとつサウス・セントラルは狭い。南北2〜3キロ、東西1.8キロしかない。歩いて端から端まですぐに行ける距離だ。でも、歩いて移動する命知らずはいない。面積たった5.8平方キロにアフリカ系、メキシコ系、エルサバドル系、ホンジュラス系など無数のストリート・ギャング・グループがひしめき合い、麻薬売買の縄張り争いを40年間も続けてきた。
 もともとこの地区にはタイヤ工場があり、アフリカ系労働者が集まったが、工場閉鎖により失業。その子どもたちがギャング化した。最初のグループ、クリップスの語源はクリブ(赤ん坊用ベッド)。それほど構成員は幼かった。
 現在、サウス・セントラルは人口の87%がヒスパニック、10%がアフリカ系で、白人はわずか1%にすぎない。映画監督デヴィッド・エアーはスキンヘッドにヒゲにタトゥーで、メキシコ系ギャングにしか見えないが、実はアイルランド系。サウス・セントラルで育つうちに英語よりもスペイン語を話すようになった。
高校を中退したエアーはギャングになる寸前だったが、海軍び込んで犯罪から足を洗った。除隊後はシナリオ作家になり、『ワイルド・スピード』や『バッドタイム』などサウス・セントラルを舞台にした映画で評価された。
エアーは、ギャングたちを凶暴な悪党ではなく、共感を持って生活感たっぷりに描く。逆に『トレーニング・デイ』『ダーク・スティール』『フェイク・シティ/ある男のルール』などでエアー作品に登場する警官たちは徹底的に腐敗して、ギャングより悪辣だ。それは90年代、サウス・セントラルを管轄とするロス市警ランパート署の警官たちがギャングから押収した麻薬を横流しするなど、悪の限りを尽くしていた事実に基づいている。
 エアーズの新作『エンド・オブ・ウォッチ』もサウス・セントラルを巡回するパトロール・カーの警官(白人とメキシコ系)が主人公だが、彼らは住民のために果敢に闘う善き警官だ。特にジェイク・ギレンホール扮する警官は、元軍人のスキンヘッドで、警察官にも憧れたというエアー自身が投影されているようだ。
そして『エンド・オブ・ウォッチ』の敵はギャングでも警官でもない。メキシコから進出してきた麻薬カルテルだ。
 筆者は2011年にサウス・セントラルを取材し、元ギャングで、今は地元の青少年を犯罪から防ぐ運動をしているアルフレッド・ローマス氏に取材した。犯罪件数は減少していた。アルフレッド氏などのギャングのOBたちが、グループ同士の和平に動き、夜回りや職業訓練などで地域の青少年の非行防止に尽力した成果だ。
 しかし、カルテルの連中は地元の悪ガキではない。国際組織の兵隊だ。現在、カルテルは大量のマリファナアメリカに密輸している。アメリカではマリファナ合法化に向けて議論が盛り上がっているが、合法化の目的の一つは、組織犯罪の資金源を断つことだ。
 ストリート・ギャングはギャング同士で撃ち合うだけだが、カルテルの連中は警官を狙い撃ちしてくる