バレエ・ホラー『ブラック・スワン』と『パーフェクト・ブルー』

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http://www.tbsradio.jp/kirakira/2010/12/20101210-1.html

今週は、ナタリー・ポートマンバレリーナを演じる『ブラック・スワン』の話をします。
僕が今年観た映画のなかでベスト3に入る面白さでした!

アメリカでは今、この映画が今敏監督の『パーフェクト・ブルー』の影響を大きく受けていると言われています。
パーフェクト・ブルー』はアメリカではよく観られている映画なので、多くの映画ジャーナリストが類似性を指摘し、監督のダレン・アロノフスキーに直接それを問い質してもいます。しかしアロノフスキーは『パーフェクト・ブルー』との関係を否定しています。

ところが、実はアロノフスキーは2001年に来日して今敏監督に直接会って、『パーフェクト・ブルー』に強い影響を受け、特定のシーンを引用したと言って事後承諾をもらっています。今監督の日記です↓
http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/archives/60

アロノフスキーが引用した場面とは、彼の監督作「レクイエム・フォー・ドリーム」(00年)で麻薬の金欲しさに売人に抱かれたジェニファー・コネリーが風呂で絶叫する場面で、これは、今敏監督「パーフェクト・ブルー」(97年)で、レイプ場面を演じた元アイドルが風呂で絶叫する場面の引用だったと告白しています。

IMDbおよび英語Wikiには、この引用のために、アロノフスキーは『パーフェクト・ブルー』のリメイク権を約6万ドルで買い取ったという記述があります。

アロノフスキーは、『ブラック・スワン』は『パーフェクト・ブルー』ではなく『白鳥の湖』にヒントを得た、と弁解していますが、それは前後関係がおかしいです。
というのも、『ブラック・スワン』のオリジナルのシナリオはバレエではなく、清純派の女優が汚れ役に挑む話でした。だから当初は『パーフェクト・ブルー』と同じだったわけです。それを後からバレエの話に書き変え、『白鳥の湖』の要素を加えたのです。
もちろん、『ブラック・スワン』でいちばん素晴らしいのは、そのアイデアなので、アロノフスキーは胸を張って「これは自分のオリジナルである」と言っていいし、そのうえで今敏監督の影響を認めて、この映画を彼に捧げて欲しかったです。

人が作ったすべての作品は誰かの何らかの影響を受けています。
それを無理に隠す必要はない。
タランティーノなんて自分が好きな映画のアイデアを寄せ集めて自分の作品を作っているけど、別にそれを隠してないし、ちゃんと敬意を表している。
キルビル」日本版もちゃんと深作欣二監督に捧げているし。