TomoMachi2004-03-08

アメリカで最もリスナーが多く、最もエロで過激で、最も保守的な連中から嫌われているラジオ・パーソナリティ、ハワード・スターンの番組が終わろうとしている。
先週から毎日、番組でハワードは「明日にも終わるかもしれない」と絶望的な口調で話し、リスナーからの応援の電話が殺到している。


ハワードの番組は月曜から金曜の毎朝6時から10時までの放送で、
通勤途中の車の中で最も聴かれている生放送だ。
スタジオでは全裸のポルノ女優や知恵遅れのコビトさんが駆け回り、
ハワードは電話で人妻とテレフォンSEXしたりKKKと口喧嘩したりする。あらゆる放送禁止用語が飛び交う素晴らしい生放送だ。
毎日のように南部のキリスト教右翼から「放送やめろ」と抗議の電話が入り、
実際にコロラドなどいくつかのラジオ局はキリスト右翼のボイコットでハワードの放送を中止していた。
しかし、それでも聴取率は圧倒的だったのだが…。


2月25日、全米のラジオ局の6割以上を独占するクリア・チャンネルが、フロリダ他6つのラジオ局でハワードの番組を中止したのだ。直接の理由は、不適切な放送が行われた時に放送局がFCC(TVやラジオを管理する連邦政府機関)に支払う罰金が莫大になってきたこと。クリア・チャンネル(以下CC)は「改善がなければしかるべき措置をとる」とコメント。これは要するにCC所有のラジオ局すべてで放送を中止するという脅しである。
 そんな脅しに屈するハワードではない。彼は「これは保守的政治家や宗教家との戦争だ」と宣言し、スタジオから恋人に電話して昨晩のSEXについてモロに話し合った。さらに自分の番組を放送するCCの正体を暴露し始めたのだ。
 CCは1996年の通信法改正によって、わずか6年間に千二百ものラジオ局を買収した「怪物」だ。CCは同時に全米のコンサート会場の7割をも買収した。ミュージシャンはCCに金を積まないとラジオでもかけてもらえないし、ツアーもできないのだ。つまり現在、アメリカの音楽業界はCCに支配されている。
 そんなことをしても独占禁止法違反に問われないのは、CCがテキサスの会社で、ブッシュ政権とべったりだからだ。CCはブッシュの戦争を支持し、ディキシー・チックスがブッシュを批判した時も全米で彼女らの歌を放送禁止にした。
 イラクと戦争するか賛否が分かれている時には一切の反戦歌の放送を中止したので、ビースティボーイズやREMは自分たちの反イラク戦争の歌をインターネットで流すしかなかった。レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンの曲は特に反戦を歌ってはいないが、反体制的なので全曲が放送中止の対象になった。


そして、クリア・チャンネルはハワードがブッシュをファシスト呼ばわりした4日後に放送を中止した。


ハワード以外のクリアチャンネルのパーソナリティはほとんど右翼で、
イラク開戦を求める集会を開いたり、ディキシー・チックスのCD焼き捨てキャンペーンを行ったりしている。
また、「黒人なんて人口の二割もいないんだから相手にするな」と言ったり、黒人からの抗議に「鼻の骨をとってから出直せ」と言った右翼政治DJラッシュ・リンボーや、ゲイからの電話に「ケツマンコしてエイズで死にやがれ」と言った右翼DJのマイケル・サヴェージはなぜかクリア・チャンネルから何のお咎めも受けずに放送中だ。


クリア・チャンネルの拡大は続き、数年後にはアメリカのラジオ局のすべてがこのテキサスのブッシュべったり企業に乗っ取られ、たとえばキリスト教右翼とブッシュを徹底批判したインキュバスの「メガロマニアック」みたいな曲はラジオから流れなくなってしまうのだ。


ハワード自身は実はただの下品な男ではない。
この日記にも書いたが本当は優しいヒューマニストで、自由主義者だ。
同時多発テロの起こったNYから唯一通常通り放送を続けた番組でもある。
その後、二ヶ月間、アメリカのTVやラジオが笑いを自粛している最中も
NYから笑いとエロでアメリカを鼓舞し続けた。
その時は、毎日「ユダヤ野郎のハワードを殺す」と脅迫電話してくるKKK団員のダニエルという男が「ハワード、大丈夫か?」と電話してきた。
「あんた、心配してくれるのか?」
「俺たちKKKが殺す前にテロなんかで死んで欲しくないだけさ」
なかなか泣ける瞬間だった。


ちなみにラジオに罰金を科する政府機関FCCの会長はコリン・パウエルの息子だ。当然、ブッシュ支持を表明しているラッシュ・リンボーやマイケル・サヴェージは何を言ってもお咎めなし。