Podcast映画特電は恐怖のハッピーエンド『幸福』

TomoMachi2008-10-09

毎週木曜日のポッドキャスト町山智浩アメリカ映画特電」、先週は休んでごめんなさい。
今週は、フランス映画なんですが、アニエス・ヴァルダ監督の『幸福』(1964年)についてお話しします。
http://www.enterjam.com/tokuden.html


田舎町に住むフランソワはハンサムな家具職人で、少女のように若く美しい妻テレーズと、妖精のように可愛らしい二人の子どもと仲良く幸福に暮らしていた。
それはそれは絵に描いたような、エデンの園のアダムとイブのように純粋無垢で幸福な家族だった。


ところが、ある日、フランソワは郵便局で美しい女性に出会う。
彼女は、フランソワに家庭があってもかまわずに愛をぶつけてくる都会的な女だった。


フランソワは彼女と密会を重ねる。
心の底から妻を愛し、家族を愛しているので、無邪気な彼には罪悪感はない。
そして、ある日、妻に告白する。
僕は君を本当に愛しているが、もう一人の女性のことも本当に愛している、と……。


この映画は一種の「ハッピーエンド」で終わりますが、それを見た時、観客の胸にはむかつくような違和感が残ります。


ヴァルダ監督は、印象派の絵画のように美しい映像、モーツァルトの優雅な音楽、おとぎ話のように可愛らしい家庭、そんな完璧な幸福の内側に巣食う、ぞっとする「何か」を描いています。


ポッドキャストでは言っていませんが、それは「エゴ」です。
幸福になりたい、幸福を守りたいという心は実はエゴなのです。