『ミリオンダラー・ベイビー』と『クラッシュ』で二年連続アカデミー作品賞を受賞し、
今年は『硫黄島からの手紙』がノミネートされているポール・ハギスの新作監督作品『エラの谷』のロケ現場を訪ねてニューメキシコ州アルバカーキに行ってきた。
映画の内容についてはポッドキャストで。
http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/2007/01/130_e882.html
ハギス監督(写真)とは前にも話したことがあるけど、気さくなオッサンだった。
ただ、驚いたことに、この齢でなぜか歯の矯正を始めていた。
なぜ? オスカー連続受賞でモテ始めて色気づいたのか?
主演のトミー・リー・ジョーンズは「BOSSコーヒーのCM撮影は楽しかったよ。またやりたい」
とまったく笑わずに言っていた。
共演のシャーリーズ・セロンはいつの間にかいなくなってインタビューできなかった。小西さんからサインをもらうよう頼まれていたのに。まあ、こういうことはよくある。ドイツの記者は「ベルリンから20時間もかけて来たからあきらめきれない」と怒っていたが。
アルバカーキはプエブロの建物ばかりが並んだ街で、周りは全部、赤い砂漠。
とにかく何にもないの。
ところが、我々取材陣4人(イギリス、デンマーク、ドイツ、それにオレ)はなぜかアルバカーキ市長の歓待を受けてしまった。
なぜ?
実はアルバカーキ市は砂漠のど真ん中に巨大なスタジオを作り、ここを第二のハリウッドにしようと計画しているのだ。
「今のハリウッド映画の大半は人件費の安いカナダやオーストラリアで撮影されています。それをここアルバカーキで撮影させたいのです!」
アルバカーキ市映画コミッティのアンさんはそう言う。
アルバカーキ市は製作費のなんと25パーセントを割引すると言っているのだ。
そして、ドーム球場並みの巨大な屋内スタジオを見せられた。
「日本映画もここに撮影しに来ないですかね」と頼まれたけど、オレに言われても……。
スタジオを見学させられている間、後ろでずっと黒のトレンチコートを着た老人がじっと見つめていた。目の光もたたずまいもタダもんじゃない。
ガキの頃、神楽坂近辺に住んでいたのだが、こういうジイさんが時々いた。
静かで何も話さないんだけど、夏に着物を着ていると胸元や袖から刺青が見えたんでビビった。
「私はハリウッドで地上げなどを長年しておりました」と低い声で自己紹介してきた。
他の記者と「なんかマフィアみたいだねえ」とビビってたのだが、
その後、全員でイタリアン・レストランでディナーにしたら、
そのジイさんがボソっと「私の祖母はシシリーで……」と言い出した。
「『ビアフェスト』という映画を観ましたか?」アンさんは言う。
「あれはコロラドとドイツのミュンヘンが舞台ですが、全部、ここアルバカーキに作った室内セットなんですよ。ロサンジェルスだろうとNYだろうと、この巨大セットで撮影できます」
現在は、『エラの谷』のほかに、『T4/サラ・コナー伝説』を撮影していた。『ターミネーター』シリーズのTV版のパイロットだ。
「ただ、ここで映画を撮るのに一つ大きな問題があります。何だと思いますか?」
「エキストラです。この街は6割がメキシコ系で4割が白人。アフリカ系やアジア系がほとんどいないのです。通行人に黒人やアジア人が一人もいないとロサンジェルスやニューヨークには見えないでしょ?
だから、街にいるわずかな黒人とアジア人は片っ端からエキストラのリストに入れてるのよ」
ということで今、アルバカーキに住むとアジア人は映画に出られるよ。