午前中に『Smart』連載の映評を送ってから、アカデミー賞有力候補作なのに日本公開未定の『コールド・マウンテン』を観に行く。
南北戦争末期、コールド・マウンテンという田舎町で戦場に行った恋人(ジュード・ロウ)を待つ南部の令嬢(二コール・キッドマン)がサバイバルする話と聞いていたので、『風と共に去りぬ』と同じ? と思っていたが、ちょっと違った。
冒頭は地獄の戦場で「プライベート・ライアン」から続いているリアルなスプラッター描写で圧倒する。
ところが戦線を逃げ出したジュード・ロウがコールド・マウンテンを目指すあたりから、映画は神話的になっていく。彼は破戒牧師(フィリップ・シーモア・ホフマン)や幼な妻の未亡人(ナタリー・ポートマン)と次々に出会っていくのだが、どのエピソードも残酷でなおかつ笑えるように演出していて、おとぎ話のようだ。
そしてジュード・ロウは、男に飢えた女だらけの家に転がり込む。これはもちろんクリント・イーストウッド扮する兵士が銃後の女たちのおもちゃにされる『白い肌の異常な夜』の引用だが、裸の女が三人並んだときに、わかった。
この女たちはオデッセウス(ユリシーズ)を誘惑した三人のセイレンなのだ。
つまりこの話自体がトロイから故郷を目指した英雄オデッセウスの物語「オデッセイア」の南北戦争版なのだ。
監督はアンソニー・ミンゲラ。女の元に帰ろうとする話という点では彼の『イングリッシュ・ペイシェント』に似ている。
オデッセイは国に帰ると、留守中に彼の国を荒らし、妻を奪おうとした奴らを皆殺しにする。
だからこの映画もちゃんと派手なドンパチがいっぱいある。
ちなみにイーストウッドが『許されざる者』で使っていた珍しいダブルアクションのパーカッション銃もチラッと登場する。
音楽は当時のフォークソングだけだが、歌っているのはなんとホワイトストライプスのジョン・ホワイト。
この『コールドマウンテン』、ミラマックス史上最大の製作費なのだが、売値が高すぎて日本と中国では誰も買い手がつかず、公開は未定。
ミラマックスは去年の『ギャングズ・オブ・ニューヨーク』がコケたので信用がなくなっているのだ。
最近、カン違いで美人の役をあてがわれるようになったレニー・ゼルウィガーが、今回はちゃんとヨゴレ役なので安心する。