段ボールで『2001年宇宙の旅』をリメイクできるか?
正月明け早々に嵐の中をハリウッドに出張したよ。
ジャック・ブラック主演の新作映画『Be Kind Rewind(巻き戻して御返却ください)』の取材でね。
ニュージャージーのビンボーな町に古くて汚いレンタル・ビデオ屋があった。
置いてあるのはVHSビデオのみ。でも、DVDプレイヤーが買えないビンボー人や、新しいテクノロジーに追いつけないおじいちゃんやおばあちゃんからは重宝がられていた。
店員はモス・デフ。店の常連はガラクタ置き場のトレイラーに住むジャック・ブラック。
ジャック・ブラックはある日、高圧電線に触れて強烈な磁気を帯びてしまい、店のテープを全部消去してしまう。
そこに常連の可愛いおばあちゃん(ミア・ファロー)がやって来た。
「『ゴーストバスターズ』って映画あります?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さあ、困ったモス・デフはとんでもないアイデアを思いついた。
ええーい! 自分で『ゴーストバスターズ』作っちゃえ!
そしてブラックや近所のボンクラどもと一緒にうろおぼえで『ゴーストバスターズ』をビデオで撮り始める。
銀色のユニフォームはアルミホイルを体に巻いて、マシュマロマンは本物のマシュマロで。メカや小道具はガラクタや鉄くずや段ボールで手作り!
もちろん誰もパソコンなんか持ってないからCGなんて使えない。光線は糸で吊ったモールで表現しよう!
「どうせあのおばあちゃんはオリジナルなんか見てないし、SFXのクオリティなんかわかりゃしないさ」
ところが、おばあちゃんはそれを甥っ子たちに見せた。
ストリート・ギャングのチンピラどもに!
さあ、ギャングどもが店にやって来て、ガン!とカウンターに『ゴーストバスターズ』のビデオを叩き付けた!
しまった! バレた! 殺される! 縮み上がるモス・デフ! ジャック・ブラックは口からでまかせで言い訳する。
「こ、これが他の『ゴーストバスターズ』とちょっとだけ違うのは、あの、理由があって、せ、説明すると、あの、えーと、スウェーデン製なんです。そう、スウェーデンからの逆輸入なんです」
ギャングどもはカウンターから身を乗り出してモス・デフをギロっと睨んでドスの効いた声で言った。
「なかなか面白いじゃん。他にスウェーデン製ある?」
かくしてボンクラ・コンビはリクエストに応えてあらゆる映画を「スウェーデン製」にし始めた(製作費十円くらいで)。
鍋をかぶって『ロボコップ』!
児童遊園のジャングルジムで『ラッシュアワー2』!
段ボールで『ライオンキング』や『キングコング』!
冷蔵庫を黒く塗ってモノリスにして『2001年宇宙の旅』!
『アイ・アム・レジェンド』だの『インベージョン』だの、最近のハリウッドはリメイクばかり。
元になったオリジナルは低予算のB級映画で、スターも出てないし特撮もちゃちだったけど、アイデアとセンスだけで勝負して歴史に残った。
ところがリメイクのほうは、千倍くらいの製作費をかけてリアルなCGと大スターを使っているが、アイデアもセンスもカラッポの空虚な大作ばかり。
そんなバカげた風潮に対するカウンターパンチがこの『Be Kind Rewind(巻き戻して御返却ください)』。原案・脚本・監督・絵コンテは『エイリアン』と『バットマン』の続編を依頼されて蹴ったミシェル・ゴンドリー。
ゴンドリーは母国フランスで世界で初めてSF映画を作ったジョルジュ・メリエスの手作りセンス・オブ・ワンダーをCGだらけの今に蘇らせた。
金をかけず、アイデアとガラクタだけでどれだけ夢を形にできるか? かつての特撮映画やアマチュア映画はそんな工夫にあふれていた。それこそが映画の素晴らしさだった。ところが、CGがあれば何でもできるこの時代、金があれば何でもできるこの時代に、みんな忘れてしまった。
ゴンドリーはこの映画の中で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』もジャック・ブラックにリメイクさせる予定だったが、許可をもらえなかった。
「ケチだなあ! 段ボールなのに!」ブラックも怒っていた。
やっぱりロバート・ゼメキスって嫌な奴だな。
この映画、まだアメリカ公開前なのに、金をかけないでガラクタや段ボールで何かを作ることがSweding(スウェーデンする)と呼ばれ始め、すでにYouTubeには素人が作ったスウェーデン製「ダイ・ハード」などが上がり始めてるよ。
さあ、みんなもスウェデろうぜ! (言いにくい……)
『Be Kind Rewind』(邦題未定)は日本でも今春、東北新社配給で公開予定!