マシュー・マコノヒーの『MUDマッド』


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連載USAレポートで、マシュー・マコノヒーの『マッドMUD』について書いてます。

町山 舞台はミシシッピね。
――河というか、湿地帯みたいなとこでしたっけ?
町山 そう。ナマズとかザリガニ食ってるところ。主人公はその川に浮かぶボートハウスに住んでる中学生エリス。ネックボーンという親友がいて、二人でボートに乗って探検に行く。すると河の中州に、木の上に引っかかったボートを見つける。
―−木の上ですか?
町山 そう。洪水か何かのせいだろう。で、エリスとネックボーンはそこを秘密基地にする。ところがそのボートに夜の間は誰かが寝泊まりしてるらしい。
―−ホームレス?
町山 そうなんだけど、そのホームレスがマシュー・マコノヒー
―−『キラー・スナイパー』の殺人保安官がすごかったですね!
町山 この映画でもドロドロのテキサス訛りでしゃべるんだよ。「俺の名前はマッドだ」って。
―−『マッドマックス』のマッド?
町山 いや。泥MUDのマッド。それがこの映画の題名にもなってる。
―−なんで、マコノヒーみたいな筋肉イケメンがホームレスやってるんですか?
町山 このマッド、ジーパンの尻にコルト45を差してるの。で、エリスとネックボーンが「何したの?」って尋ねると。「人を一人ぶっ殺した」って。
―−お、面白くなってきましたね!
町山 マッドの話によると、ある女の子を愛してたんだけど、彼女にまとわりつく悪い男を殺してテキサスから逃げて来た。しかも、警察だけじゃなく、殺された男の父親が賞金稼ぎたちを雇って、マッドを殺そうとしていると言う。
―−どんどん面白そうになりますね。
町山 で、マッドはここにしばらく隠れて、彼女と再会し、二人で逃げるんだと言うんだ。木にひっかかったボートを修理してね。その話を聞いたエリスとネックボーンが感動して、彼女との連絡係を引き受けて、ボートの修理も手伝うわけ。
―−でも、主人公はその少年二人なわけですね。
町山 ようするにエリスはトム・ソーヤーで、ネックボーンはハックルベリー。で、ハックが逃がそうとした黒人奴隷にあたるのが、マッドなわけ。
―−なるほど『ハックルベリー・フィンの冒険』の現代版ですね。
町山 監督は南部出身のジェフ・コリンズ。『テイク・シェルター』の人。
―−あれはマイケル・シャノンが「竜巻が来る!」って妄想に取りつかれた父親でしたが、このマッドの言ってることは本当なんですか? 妄想じゃないんですか?
町山 それがさ、エリスたちがマッドの彼女に会ってみると、リース・ウェザースプーンなんだけど、マッドを愛してなんかいない、ただのヤリマンだったの!
――えーっ! なんスかそれ!
町山 だからエリスは「彼女とあんたは愛し合ってなんかいない。あんたのこと信じてたのに、全部ウソじゃないか!」ってマッドに幻滅するんだけど……。
――じゃあ、賞金稼ぎたちに狙われてるってのも妄想なんですか?
町山 そう思っちゃったんだけど、最後にね、ちゃんとペキンパーの『わらの犬』みたいな銃撃戦になったから安心したよ。
――それで安心するというのもおかしいですが。
町山 サム・シェパードが狙撃の名手としてイイ味出してるんだけど、監督がアクション描写にあまり興味がないらしいのがもったいなかったね。前半のトム・ソーヤー的世界、中盤の幻滅、クライマックスのバイオレンスがそれぞれもっと強烈に鮮烈に描かれてたら、メリハリの強い傑作になったと思うけど。これはいろいろと応用がきくと思った。
――というと?
町山 これは要するに典型的な田舎のアクションものを子供向け映画にして見せたから新鮮なんで、『仁義なき戦い』とかを子供の視点で語り直したらどうか? たとえば『燃えよドラゴン』は、こんなナレーションで始まるの。「僕の師匠は僕の頭を小突いて『考えるな、感じるんだ』と言いました」
――あの子供ですか!
町山 あと、主人公の少年の優しいおじさんが実は往年の潮吹き名人、加藤鷹で……とか。
――そんなの子供向け映画にできないよ!