今年のアカデミー最優秀外国語映画賞に輝いた『Tsotsi(ツォツィ)』、日本では公開されないのかな?
掘っ立て小屋が立ち並ぶスラム街を、まだニキビが残る十代の若者たちが、革ジャンに身を包み、肩で風切って歩いてくる。彼らを見て「いきがりやがって、チンピラどもが」と笑う地元のヤクザたちを睨みつける。
ここは終戦直後の闇市ではないし、これは『仁義なき戦い』ではない。
全編に響き渡る激しいビートとラップは「クワイト」という南アフリカ独特のヒップホップだ。
「ツォツィ」とは、南アフリカ語で「チンピラ」という意味だそうで、19歳の主人公は「ツォツィ」と呼ばれているが本名は誰も知らない。
彼らチンピラ四人組はスラムに済み、高層ビルが立ち並ぶ首都ヨハネスブルグの中心部(新宿そっくり!)に通って強盗を繰り返す。一握りの金のために人を殺し、車椅子の乞食の金さえ奪う人間のクズどもだ。
そんな生活に嫌気が差した仲間がツォツィをなじる。
「親からもらった名前もない、捨て犬が!」
激怒したツォツィは仲間を半殺しにし、スラムにも居場所がなくなってしまう。
彼はフラフラ彷徨ううちに高級住宅街に迷い込む。
黒人エリートの家だ。
ツォツィはその家のBMWを奪おうとして、運転していた女性を拳銃で撃ってしまう。
そのまま車を奪って逃走したツォツィだが、車の後部座席には生後三ヶ月ほどの赤ん坊が乗っていた……。
『ツォツィ』は南アフリカの現在を生々しく描き出す。
アパルトヘイトが撤廃され、ネルソン・マンデラが大統領になり、世界はホッとして南アフリカへの関心を失った。しかし問題は何も解決されいない。経済は相変わらず国民の1割にすぎない白人に牛耳られ、。9割を占める黒人は貧困にあえぎ、失業率は40%、ヨハネスブルグでは700万人がツォツィと同じように電気も水道もないバラックに暮らしているという。
悪党が偶然、赤ん坊を拾ってしまう話は、ジョン・フォードの『三人の名づけ親』(48年)をはじめ、昔から山ほど映画にされてきた。
「三人の名づけ親」とはキリストの生誕を祝った東洋の三賢人を意味している。
何の希望もないツォッツィはその赤ん坊に自分の本当の名前をつける。
デイヴィッド。
今はクズ同然の彼も、王の名を持って生まれてきたのだ。
この映画、「アカデミー外国映画賞」だが、会話のかなりの部分は英語だ(イギリスの植民地だった)。
でも、「ありがとう」という時、「ダンクー」と言う。
これは、オランダ語を母語にしたアフリカーンス語だそうだ。