もし、南北戦争で南軍が勝っていたら?

TomoMachi2006-04-07

保険会社のテレビCM。
「連合保険はあなたの財産を守ります」
「財産」というところで画面に映るのは、白人家族の立派な邸宅と、その家の庭の植え込みを刈る黒人の少年。彼は家や自動車と同じ、この家の財産、つまり奴隷なのだ。
これは黒人奴隷制度が今も続く、もう一つのアメリカのテレビCMなのだ。


映画『C.S.A. Confederate States of America』は、「もし南北戦争の勝敗を決したゲティスバーグの戦いで南部連合が勝利していたら?」というニセ・ドキュメンタリー。


南部軍は首都ワシントンを陥落し、アメリカ合衆国United States of Americaは滅んだ。そしてアメリカ連合国Confederate States of America がアメリカ全土を支配する。USAではなくて、CSAだ。

この映画『CSA』は、イギリス国営放送が製作したCSAの歴史についての教育番組をCSAのTVが放送している、というややこしい構成。だから番組の合間にCSAのCMが流れる。
北軍が負けるとリンカーン大統領や共和党支持者の多く、それに北部に住むほとんどの黒人がカナダに逃亡する(奴隷解放リンカーンはじめ共和党の政策で、南部は民主党だった)。


CSAは北部にも奴隷制度を復活させるため、奴隷を購入すれば免税する法律を制定する。
さらにCSAはWASP独裁を強化し、鉄道工夫として西部に入ってきた中国系移民も奴隷化してしまう。
また、ユダヤ系移民をロングアイランドユダヤ居留地に押し込める。
南北戦争から復興したCSAは、メキシコ、キューバを占領し、その勢いで南米全土も支配して大アメリカ帝国となる(中南米侵略は実際に南部政府が予定していた)。
第二次世界大戦でCSAはもちろん白人至上主義のナチス・ドイツと同盟する。
日本には真珠湾を攻撃される前に先制攻撃で原爆を落として降伏させ、国内の日系移民もすべて奴隷化してしまう。
戦後はアメリカは奴隷の逃亡を防ぐためカナダとの国境に「ベルリンの壁」ならぬ「人種の壁」を築く。
そして国内に隠れた奴隷解放主義者を弾圧する「赤狩り」ならぬ「黒狩り」が始まる。その一方で黒人たちが自由に暮らすカナダはオリンピックで金メダルを独占し、ロックンロールを生み出す。CSA内では黒人音楽は禁止されているので、この世界のアメリカの音楽にはシンコペーションがない。
 USAでは、南部の擬似貴族社会をノスタルジックに描いた『風と共に去りぬ』が人気だが、CSAでは、北部のリベラリズムをロマンチックに描いた『北風と共に去りぬ』が女性に読まれ続けている(CSAには女性参政権はない)。
60年代、CSAにもやっと変革の時がやってくる。リベラル政党である共和党(!)から大統領選に出馬したケネディが、奴隷解放婦人参政権を訴えて大統領に当選したのだ。しかし、すぐに暗殺されてしまう。
90年代、DNA鑑定により、一滴でも有色人種の血が混じった人間は白人と認められずに奴隷化されることになった。
 そして現在、CSAはすべてのイスラム教徒を滅ぼすべく中東に進撃、戦争は続いている。


「もし南部が勝っていたらさぞかし恐ろしい世の中に」と想像するが、CSAの歴史はUSAの歴史とそれほど違わない。USAの政府もキリスト教と結託し、戦争を拡大し、奴隷制度こそ消えたものの、今も黒人は相変わらず貧しい。
「似たようなもんさ」というのがアフリカ系の監督、ケヴィン・ウィルモットの皮肉なのだ(プロデューサーはスパイク・リー)。
 もし日本が第二次世界大戦で勝っていたら? という小説や映画は、あ、もう色々あるな。