「神に背いた少年」は「一杯のかけそば」

TomoMachi2006-02-21

実の母親に男娼をさせられていた少年の回想録というふれこみで売った『サラ、神に背いた少年』と『サラ、いつわりの祈り』の著者J.T.リロイが実在しないことが判明したわけですが、知らない人のためにいちおう説明しておくと、
1月発売の雑誌New York誌によれば、
30歳代の作家志望の女性ローラ・アルバートが自分で書いたやおい小説「サラ」を売り込むため、JTリロイという少年が書いた自伝ということにしたそうです。
それで、リロイがインタビューに出る時は、ローラのBFのジェフリー・ヌープという男の妹にリロイの役を演じさせたということ。


要するに竹宮恵子が「風と木の詩」を「ジルベールという少年の自伝です」と言って売り込んだようなものだ。

でも、リロイに会った人はすぐに女だとわかったので、今、性転換の途中だとか言ってごまかしたんだって(なんとマヌケな)、
カンヌ映画祭で一緒にいたアーシア・アルジェントは確信犯だったのか、騙されていたのか謎だなあ。
翻訳の金原パパは知ってたのかね?
ガス・ヴァン・サントは?
小説ではなくてノンフィクションとして売った出版社に責任はないの?


実はリロイに限らず、日本で本当だと信じられている「実話」本でも、アメリカではインチキと言われている本も多い。


たとえばデイヴ・ペルザーの『It”(それ)と呼ばれた子』ISBN:4789719251
実の母親から犬の糞を食わされたり、塩素とアンモニアの洗剤を混ぜて有毒ガスが出た風呂場に監禁されたり、アンモニアを呑まされたりして虐待された挙句、胸をナイフで刺され、13歳で助け出されて差里親に引き取られたという自伝。
これはアメリカでは発売当時からディテールが不自然ということで疑われ、NYタイムズがペルザーの弟に取材したところ「虐待は全部、デイヴのウソ。ナイフで刺されたのは見てたけど、偶然、チクってナイフが胸に当たっただけ。一滴の血もでなかったよ。里親に出されたのも、デイヴが放火や万引きがひどかったからさ」と証言。
祖母は「あの本は小説として売るべきだよ」と言っている。
なにしろ、『It”(それ)と呼ばれた子』の出版社の担当編集者まで「あの本はどこまで本当だかわからない」とか「デイヴが印税についてマスコミにウソばかり話すので困ってる
とか「あいつは“プロの犠牲者(つまり虐待の犠牲者であることで商売する奴”だよ」とまで言っているので、どうしようもない。
別れた前妻も本を書いてる段階から「あんたの書くこと全部ウソじゃん」と言っていた。
その後、デイヴのもう一人の兄弟リチャードがデイヴが引き取られた後、母の虐待の対象になったとする本を書いたが、明らかに柳の下のどじょう狙いで酷評された。
現在は「多少の虐待はあったかもしれないが、ほとんどは誇張と想像」というのが一般的な評価となっている。


オーガステン・バロウズの『ハサミを持って突っ走る』ISBN:4901784560。これは、著者が子供の頃、里親に出された体験の回想だが、里親が自分をサンタと思い込んだイカレた精神科医で、その娘たちもみんな変態で露出狂だったという話。
これはその娘たちが「この本は全部ウソばかり」と裁判所に訴えた。
まだ裁判中だが、バロウズは新作に「これは実話を元に脚色したものです」と断り書きを入れたので、やはりフィクション性が高いことを認めたのだろうと言われている。


最も有名なインチキ本にはフォレスト・カーターの『リトル・トリーISBN:4839701091
著者はリトル・トリーというインディアン名を持つチェロキー・インディアンで、
祖父からの教えと思い出を書いた本ということになっているが、
書いた男カーターは、インディアンとは縁もゆかりもない白人。
しかもKKKのメンバーで、右翼政治ゴロだった。
アラバマ州知事ジョージ・ウォーレスのために彼が書いた演説は
「今日こそ人種差別を! 明日も人種差別を! 永遠に人種差別を!」
というものだった。
チェロキー・インディアンによると『リトル・トリー』に書かれた内容はまったくの
出まかせで、カーターはチェロキー族についてもろくに知らなかったらしい。
本物のインディアンの人々は「人種差別主義者がインディアンを騙って金儲けしやがって!」とカンカンに怒っている。


でも、アマゾンのレビューなんか見ると、日本の読者はみんな感動の嵐だよ。
連中は感動してるんだから、放っといてやるか。別にオイラの友達でもないし。
日本には大泉黒石というすごい人もいるけどね。