金持ち息子

TomoMachi2004-08-05

映画クライシス・オブ・アメリカManchurian Candidateを観た。
これは1962年のジョン・フランケンハイマー監督作『影なき狙撃者』(邦題)のリメイク。
満州人の大統領候補」というタイトルは主人公が中共で洗脳されることと、満州の傀儡政権を引っ掛けてある。
朝鮮戦争である部隊が敵に襲われるが、部隊にいた大金持ちの息子ローレンス・ハーヴェイの大活躍で部隊は救われ、ハーヴェイは英雄となる。
ところが、部隊の一人フランク・シナトラは、ハーヴェイの活躍を覚えているのだが、それがどうも曖昧だ。


実は、部隊は前線で全員が敵に捕らわれ、洗脳され、「ハーヴェイの活躍」というニセの記憶を植えつけられていたのだ。


なぜ、中国がそんなことをしたのか?
実はハーヴェイの母親が中国とつながっていたのだ。
財界の大物である母親は保守政党の政治家と再婚し、英雄である息子の威光も使って彼を大統領候補に押し立てようとしていた。
さらに息子は洗脳時に、ある言葉を言われるだけでどんな命令にも従う殺人ロボットとしても訓練されていた。
母は政敵を息子に暗殺させ、大統領の座を狙う……。


実際、朝鮮戦争で中国軍の捕虜になったアメリカ兵は共産主義者に洗脳されて帰ってきた。
それと同時に、冷戦時代のアメリカはマッカーシズム社会主義思想を徹底的に弾圧するあまり、反共思想に国民を洗脳する共産主義的な社会になっていた。
さらに冷戦で進む軍備、巨大化する軍需産業、政府との癒着……。
この『影なき狙撃者』は、「アメリカの資本家と政治家が裏で共産主義国家と結託して冷戦構造をデッチ上げて民衆をコントロールしているのではないか?」という当時のアメリカ人のパラノイアを反映した、政治的というよりは「電波系」のサスペンス映画だった。


しかし、公開直後、ケネディ大統領が暗殺された。
「犯人」オズワルドは『影なき狙撃者』のハーヴェイのように共産圏に行って帰ってきた狙撃手だった。
また、その裏には軍産複合体が動いているとも言われた。
影なき狙撃者』の主演俳優フランク・シナトラはマフィアを通じてケネディと親しかった。
ロバート・ケネディ司法長官がマフィア撲滅を掲げてから袂を分かってはいたが、
影なき狙撃者』の内容はちょっとシャレにならない、と判断して権利を買い取って封印した。
それは1987年まで続いた。


そのため今回のリメイク『Manchurian Candidate』のプロデューサーはシナトラの娘になっている。
今回は朝鮮戦争ではなく湾岸戦争になっているが、前半の展開はほとんど同じ。
金持ち息子(リーヴ・シュライバー写真)が洗脳によって戦争の英雄に仕立てられる。
しかし、今のアメリカで「軍歴を詐称した金持ち息子」といえばみんな誰を思い出すか?


今、ホワイトハウスにいる男である。


シュライバーは戦争の英雄であることを売り物にホワイトハウスを目指す。
しかも、今回、シュライバーの母親(メリル・ストリープ演じる大富豪の上院議員)が裏で癒着しているのは、共産国ではなく、マンチュリアン・グローブという名の軍需産業を含む巨大なコングロマリットである。
彼らは最新のマインドコントロール技術で部隊とシュライバーを洗脳した。
ホワイトハウスを操る巨大軍需産業といえば、ブッシュ親子が経営陣にいたカーライル、チェイニー副大統領がCEOだったハリバートンを思い出さざるを得ない。
つまり、大企業は金持ちボンボンの大統領を文字通りロボットのように操り、
企業の利益のために対テロ戦争をデッチ上げる。


この映画がブッシュ政権に向けて作られているのは明らかで、
物語は、大統領選挙を中心に展開し、しかも対テロ戦争の真っ最中という設定だ。
シュライバーの政党は明らかにされないが、マジソンスクエア・ガーデンでの党大会が描かれる。
あと数週間後にマジソンスクエア・ガーデンで党大会を開くのは共和党である。


シナトラの役割になるヒーローは、洗脳の事実に気づいたデンゼル・ワシントンで、彼はシュライバーのホワイトハウス入りを阻止すべく孤軍奮闘するのだが、周りからは気が狂っているようにしか見えない。
上に書いたプロットは前半だけで、中盤から先は『影なき狙撃者』とはまったく違う独自の方向に展開していく。
冷戦パラノイアの電波系映画を、ブッシュを揶揄する寓話に仕上げた脚本家リチャード・ペインは、すでに1億円のシナリオ料を手にしたそうだ。


監督はジョナサン・デミ
羊たちの沈黙』でフェミニストの支持を得て、『フィラデルフィア』ではゲイの権利擁護に立ち、
『愛されし者』では黒人差別に取り組んだリベラル派だが、『ストップ・メイキング・センス』『サムシング・ワイルド』などで音楽の使い方が抜群に上手いことでも知られる。
『マンチュリアン・カンディデイト』のエンディングに流れるのはCCRの『フォーチュネイト・サン』。
これは最近の反戦集会では必ず歌われるようになった。ブッシュのことに聞こえるからだ。


旗を振るために生まれてくる連中がいる
そう、赤と白と青の旗だ
マーチングバンドが軍歌を奏でる時
連中の銃口は君たちに向けられるんだ


俺は違うぜ、違うんだ
俺は億万長者の息子じゃない
俺は違うぜ、違うんだ
俺は金持ち息子じゃない


銀の匙をくわえて生まれてくる連中がいる
うん、連中は生活に苦労しないよ
でも税務署は連中のために
俺たちが稼いだものを根こそぎ持っていくんだ


星条旗の瞳で生まれてくる連中がいる
そうさ、連中が君たちを戦場に送るんだ
そして、君が「どれだけ身を捧げればいいの?」って尋ねると
連中はいつもこう言うのさ


もっと、もっと、もっとだ


ちなみに金正日の料理人だった藤本氏によると
将軍様は辛いものが苦手で食べられないんだそうな。
くそボンボンめ、甘やかされてやがんな。
ウチの娘なんて4歳でキムチばりばり食べてるのに。